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覚悟 2
雅の冷や汗は引き、どうにかなったみたいだと安心した時だった。
「
でも…失礼だけど、どうしてそんな恰好をしているの?」
母親にそう聞かれ、裕司と顔を見合わせ頷き合う。それは聞かれるだろう質問だった。ことの説明をするために今日は女性らしい服装をしてきたのだ。
裕司には雅の過去、現在がどういう状況なのかを説明することを了承していたため、口を開いたのは裕司である。
話をする間、父親は無言で、母親は時々悲しげに声を上げていた。
そうしてすべてを離し終わる。
先ほどまで温かかったはずの部屋は今は冷気が立ち込め、なんとも言えない雰囲気になってしまっていた。
意外にもさきに話しかけてきたのは父親の方だった。
「君は…君は、どうなんだね。女性として生きたいと思っているのかね」
「いいえ…わた、俺は、男として生きることを望んでいます。女性として生きる気はありません。たしかに恋愛対象は男性ですけど」
「そうか。では、その気持ちをその方に伝えることを、結婚の許しとする」
「は?」
反応が早かったのは裕司だ。
「さっき私から言うことはなにもないって言ったじゃないか」
「息子を嫁…婿…、に出すのだ。それなりの覚悟がこちらとしても欲しい」
父親の言うことはもっともだ。大事な長男をもらうのだ、ちゃんと意思表示することは大事だろう。
しかし…。
雅は昔祖母に切りつけられた傷跡が疼くのを感じる。祖母に男性として生きることを伝えるのは、反抗するのと一緒だ。祖母に引き取られてから二十二年間、雅は祖母の言うことを大人しく聞く人形だった。それが今、反旗を翻そうとしている。
雅は右腕の傷を服の上からそっとさすり、父親の方を向いて頷いた。
「わかりました。ちゃんと、言います」
「雅、無理しなくても」
「ううん、大丈夫。俺だっていつかは言わなきゃって思ってたから…それが、今になっただけ。それに本当に俺は裕司と一緒になりたいから」
「雅…わかった、雅がその気なら俺も一緒に行く」
裕司が雅の手を握ってくれる。そこから暖かい気持ちが流れ込んできて、雅はほっとし微笑んだ。
「ありがとう」
「雅のためだから」
「…ごほん」
見つめあっていると、父親が咳払いを一つした。まずい、ここは裕司の家なのに何してるんだろう。恥ずかしくなった雅は慌てて居住まいを正した。
「話は纏まったの?じゃあ安倍さん…雅ちゃんって呼んでいい?」
「あ、はい」
「雅ちゃん、今日知ってると思うけどお父さんのお誕生日会なの。一緒にお祝いしてくれない?」
「わた、私、参加していいんですか…?」
「もちろんよ!裕司の彼氏さんなんてめでたいことだし!」
「おい、本分を忘れるな」
「はいはい、お父さんの誕生日が本分ですよぉ」
母親はくすくす笑って父親の肩をポンポンと叩いた。
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