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覚悟 1

 言い当てられた瞬間、帰りたくなった。本当に。 「っ、あ、はい…」  すぐにはいと言えた自分を褒めたくなる。  返事を聞いた裕司の父はなんと言うだろう。プロポーズなんて飯事(ままごと)だと言うだろうか。結婚なんてできないだろう、と。それとも男の分際で裕司をたぶらかしたと怒られるだろうか。恐怖で膝の上に置いた拳を握りしめる。    雅が答えてから部屋は静かになってしまった。春の麗らかさが感じられるはずの部屋で、雅は一人冷や汗をかいている。  最初に反応したのは母親だった。  父と雅を何度も往復して見て、あらまぁ、と言った。 「じゃあ、どっちがウェディングドレスを着るの?」 「母さん…」 「お前…」  父親と裕司が今はそう言う問題じゃないだろと言わんばかりに同時にため息まじりの声を出す。 「裕司は似合わないわね。でも雅さんは似合いそう。それにしても男の人だっただなんて…全くわからなかったわ。お化粧お上手なのねぇ」  私も見習いたいわと母親は頬に手を当て化粧ノリを気にする。雅はその言動に思わずきょとんとしてしまった。裕司に肘で小突かれるまで固まってしまう。  一気に緩やかな雰囲気になってしまいどう反応すればいいのか迷っていると、裕司と同じように父親が咳をし場を改めた。 「まぁ、なんだ。裕司は本気だ、ということでいいんだな?」 「本気だよ。プロポーズだって嘘じゃない。茶番でこんなことしない」 「そうか…なら私から何か言うことはない」  茶を飲み、父親は黙ってしまった。え、これだけ?と雅が再び固まっていると、裕司はほら、大丈夫だろと雅の顔を伺いながら言う。雅はなんとも言えない表情で、小さく挙手をし質問をする。 「あ、あの、孫とかって…」 「ああ、気にしない気にしない。別にうち跡取り欲しがるような家系でもないもの。お父さんもただのサラリーマンだし」 「ただのとはなんだ。これでも立派に働いてだな」 「あぁはいはい。わかってますよぉ」  母親が文句を言い始めそうな父親の肩をぱんぱんと叩く。

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