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After Story1

「雅…?」  懐かしい声に思わず振り返る。そこにいたのは、高校時代付き合ったことのある男ー秋也だった。 「久しぶりだな」 「あ、うん…久しぶり」  タイミング悪いな、と少し長くなってしまった髪を耳にかけながら雅は思う。  今日は裕司とデートの約束をしていた。二人の休みがたまたま合致したからである。目的地に向かうそんな折、声をかけられてしまったのだ。 「髪、切ったんだな。でもそれ以外あんまり変わってないな」 「…うん」  秋也は高校の時より大人びて見える。当たり前だ、付き合っていた高校三年生のい時分からもう十数年の月日が流れている。大人びて見える、というより大人になったのだ、二人とも。  彼とは、他に付き合った人よりも特に苦い思い出がある。あまり思い出したくないが故に、顔を見ることができない。 「あのさ、雅…」 「ごめん、私もう行かなくちゃいけないから」  私、なんてどれくらい使っていない一人称なのだろう。わざわざ秋也のために使うなんて…とちょっとばかし嫌な気持ちになりながらも、踵を返す。しかし腕を引かれてしまい、その場でたじろぐ。 「なに?」  今更なんの用があるというのだ、という少しの冷気を気持ちを込めて言う。 「あ、悪い。でも…その、連絡先、交換したくて」  必要ないでしょと言いかけたところで、視界の端に裕司が映る。後でわかったことだが、約束の時間になっても現れない雅を案じて駅までこうして来てくれたのだ。裕司にこんな姿を見られたくない。咄嗟に雅はわかったと言って携帯を取り出した。電話番号をさくっと交換すると、雅は足早にじゃあねと言ってその場を去る。  裕司はすぐに雅を見つけてくれて、その後のデートは滞りなく楽しむことができた。  数日後、電話番号から辿ったのか、メッセージアプリに秋也からメッセージが届く。 『カフェで話さないか』  雅は今年が厄年かどうかを確認した。  

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