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第43話

 その日の夕方、明さんが戻ってくるなり、雪弥さんはまるで悪戯をして叱られた子供のように泣いた。麻野や明さんが、雪弥さんが思っている以上に自分のことを気にしているのだと分かったからなのだろうか。麻野も、ぼくも、そして明さんも驚いたけれど、それだけ雪弥さんはずっと心細さを胸に抱えていたということだ。  雪弥さんはいま、麻野のベッドの上で、眠っている。麻野はそれを見下ろしながら、額にデコピンを食らわせた。 「おい、やめろよ。雪弥さんが起きる」  痛みのせいか、雪弥さんが顔をしかめる。麻野はそれを見るなり意地の悪い笑みを浮かべて、また2,3度とデコピンを食らわせる。 「しつこいぞ」  言いながら麻野の腹を軽く蹴ってやる。すると麻野はぼくのその足をとると、足の甲にキスをした。 「エッチしよう、集」 「‥‥人の話を聞いていないのか? 明日は検査だと言ったはずだ」  それに雪弥さんが寝ていると牽制しようとしたが、麻野はぼくをベッドに押し倒し、キスをした。 「我慢できねえ」 「獣め。明日になったら思う存分ヤラせてやるから、もう一日我慢しろ」  ぼくだって麻野が足りないと、恥ずかしさを堪えて呟く。すると麻野は数秒止まって、ぼくのスエットパンツと下着を無理やり太もも辺りまでおろした。 「うわっ、バカか!?」  ぼくの抗議の声は、麻野の唇に飲み込まれた。驚いた拍子に、麻野の舌が割り込んでくる。ぬるりと、熱い舌がぼくの舌に触れた途端、急激に下半身が熱くなってくるのを感じた。 「んっ、っ、ふ」  鼻に抜けるような声が上がる。麻野の舌がぼくの唇に触れ、何度も何度も角度を変えて、キスをする。そのまま舌を食べられるんじゃないかと思うほど吸われたかと思うと、麻野の指がぼく自身に絡みついてきた。久々に麻野が触れるからだろうか。ぼくのそこはすでに固くなって、存在を誇示している。 「へっ、いやいや言いながらしっかり反応してんじゃねえか」  麻野がぼくの腕を掴んだまま顔を下げ、ぼく自身にキスをする。慌てたぼくを笑いながら、麻野はぼく自身に肉厚な舌を這わせ始めた。下半身から濡れた音がする。ぴちゃぴちゃと音を立てたり、銜えたりして、ぼくを刺激する麻野を睨むが、麻野はぼくに構わず器用にフェラチオを続けている。 「んあっ、っ、あ、あさ、のっ」  麻野はなにも言わずに双球を手で揉み、そうかと思うとフェラチオをやめ、双球に吸い付いてきた。 「っ!」  こんなことをされると思っていなかったぼくは、反射的に仰け反ってしまったあとで、雪弥さんが横に寝ていることを思い出し、おそるおそるそちらに視線をやった。雪弥さんは起きる気配がない。すうすうと規則正しい寝息を立てている。けれどベッドが軋む振動で起きやしないかとハラハラするぼくをあざ笑うかのように、麻野は既に屹立している麻野自身を下着の中から解放していた。 「お、おい、まさか‥‥」 「足閉じろ」 「はっ!?」 「いますぐ突っ込んでやりたいけど、こっちで我慢するって言ってるんだ」  麻野はぼくの足を閉じさせると、膝が胸につきそうなほどぐいっと体を丸めさせてきた。腰と背中が痛くて呻いたが、麻野はいっぱいいっぱいなのか、どこからともなく取り出したローションをぼくの太ももや股間、そして自分自身へとまぶし、ぼくの太ももの間に麻野自身を突き入れてきた。  麻野とぼくがこすれ合い、なんとも言えない感触がぼくを襲う。思わず呻いたぼくを笑い、麻野はにやりと笑みを描いた。 「たまには、こんなもの乙な感じだろ?」  なにが乙だと突っ込んでやりたかったが、麻野はぼくの抗議を封じるかのように腰を動かし始め、それは叶わなかった。 「んあっ、は、あっ!」  麻野のものが、ぼく自身をゴリゴリと刺激する。思わず検査なんていいから突っ込んでくれと言いたくなるほどもどかしい。こんなにも熱い麻野がすぐそこにあるのに、ぼくの欲しいところに刺激が与えられないのは最早拷問だ。前の刺激なんかでは感じられない麻野が欲しい。それなのに、麻野はぼくの両腿を外側から押し付けてきて、太ももの感触だけでイこうとしている。どうしようもない感覚に頭がガンガンしてきはじめた頃、麻野がぼくの会陰あたりを刺激してきた。 「ちょっ、あさ、の‥‥っ」 「こっちだけじゃ足りないだろ?」  言いながら、麻野はぼくの太ももで快感を得ながら、会陰を指の腹で軽くマッサージするかのように触れてくる。そうかと思うと指でトントンと軽く叩いたり、会陰を指で押し込むようにしてすぐに指を離したり、それを繰り返し何度も何度も、しつこいくらいにやり始めた。これは完全にぼくをイかせる気だ。暴れてやろうかと思ったが、麻野に抑え込まれた体はそう簡単に逃げられない。ぼくが息を弾ませながら喘ぐのを頭上から楽しそうに見つめると、麻野は気持ちよさそうに息を吐いて、笑った。 「集、すごいことになってるぞ」  言いながら、麻野がぼく自身に触れた。ぼくの腹の上は先走りでびしょ濡れになっている。あまりの恥ずかしさに顔を隠そうとしたが、麻野が会陰部に押し込んでいる指のあたりが急激に熱くなってきて、自然発生的に体が仰け反った。 「ふあっ、っ、っ!」  雪弥さんが寝ているから、迂闊に声を出すわけにはいかないというのに、かなり大きな声が出てしまった。  必死に口を塞ぐも、麻野の指がぼくの快感を高めているのか、ぼくの腹の上が熱い。びくんびくんと体が跳ねるのを見ながら、麻野が笑った。 「すげえ、萎えてんのに垂れ流しじゃん」  俺もとかすれた声で言った麻野が、スパートをかけるように腰を振りだした。雪弥さんが寝ているというのに遠慮がない。ギシギシとベッドが音を立てて軋むほど腰を振りたくって、麻野はぼくの腹の上に射精した。 「っは、はあっ。すげえ。エロい」  脱力感のせいで動けないぼくを眺め、麻野が言う。麻野は自分自身を扱き精液を出し切ると、はあっと溜息を吐いて、ぼくに覆いかぶさるように倒れ込んだ。 「重たい」  ぼくが冷たく言っても、麻野はどかない。再三口うるさく言ったからなのか、フェラをしたあとなのでキスをしようともしない。麻野の様子を妙に思い、声を掛けたが、麻野はなにも言わなかった。 「大概には不器用だよな、麻野は」  ぽんぽんと麻野の背中を叩く。 「そんなに雪弥さんのことが心配なら、口で言えばいいんだ。そうすれば雪弥さんは、もっと早く、麻野や明さんの気持ちを解っていたかもしれない」 「‥‥うるさい」  麻野の涙声を初めて聞いたような気がする。ぼくは麻野をぎゅっと抱きしめてやった。 「大丈夫。雪弥さんはもう、心配ないよ。ぼくだって、麻野のおかげでここまで気持ちが変わったんだ。ぼくももう迷わない」 「じゃあキスしろ」  ぼくは麻野の額にキスをして、自分よりも大きな体をぎゅっと抱きしめた。 「雪弥さんが起きたら、成瀬を連れて焼き肉に行こう。前から楽しみにしていたし、あまり成瀬を蔑ろにしたら拗ねるからな」  そう言ったら、麻野は「拗ねた啓なんて放っておけ」と、やや焦れたような口調で言った。 「おまえは俺だけを見ていればいい」 「雪弥さんはどうするんだ?」 「雪弥も放っとけ。あまり構いすぎたら俺が嫉妬するぞ。拗ねるぞ。そんでお前を抱き倒すぞ」  ぼくはあまりに子供じみた発言をする麻野を前に、思わず笑ってしまった。麻野は「俺は本気だ」と不服そうだったが、ぼくと麻野の関係が始まった時、まさかこんなにも本音で話せるようになると思わなかったから、意外だったのだ。僕が分かったと頷くと、麻野は満足げに笑って、ぼくの額にキスを返した。

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