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第7話 そこは、ダメ♡
バンッ!
キンッ!
激しい攻撃がつづいている。
相手はゴブリン。
ゴブリンは次々に奇声をあげて飛びかかり、粗末な剣を適当に振り回している。
シュエンは攻撃を防ぐために、盾を使うが……。
ガッ!!
(……っ!!)
青い宝石にクリティカルヒット。
あまりの衝撃に、盾は音にならない悲鳴を上げた。
(……ぁ……今のは……ッ)
盾の中央の装飾品。
我が誇りとも呼べる蒼玉のコアに、もろに攻撃を喰らってしまった。
青龍の息が上がる。
パキィッ……
(ぐあ゛ぁっ!)
鋭く亀裂が入り、激痛にも似た感覚が走る。
青龍の魂が悶えた。
(でも、今はまだ、倒れるわけには……)
青龍は魔力を宝石に集め、痛みの感覚を別のものへと変えた。
するとどうだろう。
不思議な事に、呼吸は落ち着き、冷や汗は止まった。
(よし、これで、まだ戦える!)
シュエンは盾の宝石にヒビが入った事に気づいていた。
よって、盾を使わず、敵の攻撃を避けている。
(シュエン様、問題ありません! まだ戦えます!)
ヒビが入った宝石を光らせて伝える。
シュエンは何かを感じ取ったかのように、敵に向き直った。
再び、シュエンが攻撃を始める。
盾も気を取り直し、主と共に敵に立ち向かう。
(さぁ! かかってこい!)
──しかし。
ビュンッ!
繰り出される数々の攻撃の中で暴風が吹く。
それが、ヒビを擽るのだ。
(ひぁっ……)
盾、まさかの事態。
痛みの感覚を快楽へと変えてしまった。
ビュンッ!
(ぁんっ!)
喘ぎ声が漏れる。
盾のくせに、だ。
(なっ! ……これでは、私がまるで変態ではないかっ!!……ぁっ……ちょっ……)
攻撃の振動、シュエンの鼓動まで盾の中に響いてくる。
これは、なぜか。
実は、ヒビは徐々に進行し、深くなっていた。
(だめだ……まだ戦いは終わってないのに……どうにか……ぁ!)
主は気づいていない。
盾の中で今まさに、命がけの“戦い”が始まったことを。
盾の表面温度は急上昇した。
(ふぅぅぅ……はぁっ……落ち着け、落ち着け私……)
盾の役目は、主を守る事。
(主に気づかれてはいけない……こんな……こんな、恥ずかしいこと……っ)
盾が羞恥と戦い始める中、シュエンは着々と敵にダメージを与え、ついに決着をつけた。
敵が地に伏した。
静寂が訪れる。
「……ヨウ、大丈夫か」
シュエンの声が穏やかに降る。
(シュエン……さま……!)
シュエンが欠けた宝石を見て、心配そうな顔をしている。
たったこれだけの小さな傷なのに、こんなにも気にかけてもらえるとは。
青龍は泣いた。
(シュエン様。私は大丈夫です。この程度の傷など……痛くありません……ただ少し、その、あの、くすぐったく……)
その瞬間だった。
カラン――
青い宝石が、剥がれ落ちた。
(…………えっ)
嫌な予感。
全感覚が警鐘を鳴らす。
――そして、運命の瞬間が訪れる。
シュエンの指が、何気なくそこへ触れた。
「……?」
(ひゃぁあぁぁああっっ!?!?!?)
全力の悲鳴。ただし、シュエンには聞こえない。
(なっ、なっ、なっ……っ! そこはっ、そ、そこだけは……)
「せっかくの宝石が取れてしまった」
シュエンが宝石のカケラを拾う。
「嵌めても落ちるか……これは、どうなっている……」
シュエンがまたその場所に触れる。
魔のフェザータッチ、再び。
(ぁぁっ! シュ、エンさまっ!! やめ……ぁっ!)
宝石がはまるはずの窪みを、なぜかシュエンがサワサワと触り続ける。
(や、ちょ……待っ……て、そこはぁぁっ!!)
ビクッ、ビクッ、と体が跳ねる――跳ねてるつもり。
盾の内側で、魂がねじれ、背筋がよじれる。
なぜかフェザータッチ。
(しゅっ、シュエン様っ、優しっ……いえ違うっ、触れないでっ、でも嫌じゃない、でも触れ……ぁぁあん♡)
悶える金属である。
盾はヒィヒィと喘ぎ続け、シュエンはサワサワと触り続けていた。
「さて……行くか……」
(……いく……ですって???……いく!?)
滝のような汗が流れた。
どこに行くか分からないが、とりあえずフェザータッチ攻撃は終了した。
青龍はほっと胸を撫でおろし、息を整える。
そこに、そっと――
また、指が滑った。
(んひゃぁあああぁぁぁあっ♡ シュエン様の意地悪っ♡)
──この戦場で、誰よりも熱かったのは、
盾だった。
シュエンは盾を担ぎ、あの店へ向かう。
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