趙武(ちょうぶ)が腕を回し絡ませ、口づけを請うように背を伸ばしてくる。士匄(しかい)はそれにあわせて屈み、さらに抱いて引き寄せた。薄く細い体は、折れそうな心地でもある。しかし女のしなやかさも柔らかさもない。そして士匄は趙武にそんなものを求めたことはない。 　唇は瑞々しく柔らかで、小さい。合わせると、趙武の舌がそろりと入ってきた。まるでお伺いをたてるかのようにゆっくりと歯を舐め探るように進んでくる。士匄は、反射的に怖じ、眉をしかめた。どうしても、男の臭いや味に腹の底で嫌悪が走った。趙武がどうというわけではなく、本能的なものであった。それでも今は、趙武に浸りたい、求められたいという思いが勝つ。口内で踊る舌に己の舌を絡め舐め、軽く吸い揉んだあとにまた舐める。舌先と舌先を擦り合うように舐めあい、舌体を互いに絡ませ、互いの粘膜をこそぎおとすように貪り合う。 　士匄の舌が趙武の口の中に入り、歯列を撫で舌を絡め取る。唾液もだらだらと落ち、趙武の唇から溢れ顎をつたっていった。一瞬離れた時、士匄は趙武の顎を掴み、その口へ唾液を落とした。趙武がそれを受け止め舌で絡め取り、飲んだ。士匄は覆い被さるように再び唇を合わせ、趙武は縋るように応じる。互いの唇を軽く食みあい、舌でなぞり、またどちらかの口内を貪っていく。部屋の中はかすかな息づかいと舌先が鳴らす粘膜めいた音だけが小さく響いた。 　趙武が耐えられぬように膝を崩した。士匄はその腰を支えゆっくりと体を降ろしていく。趙武は熱に浮かされたような顔をして身を任せた。二人で膝立ちのまま、やはり何度も唇を合わせた。積極的になった士匄の口づけは熱く激しく、奪うようである。趙武の手が士匄の耳裏を撫でた後首筋を経て、肩、胸へと沿わされた。まさぐるようになぞっていく。乳頭を押されて、士匄の舌が丸まり、喉が鳴った。趙武が唇から離れ、今度は首筋を軽く噛む。そのまま体重をかけてきたため、士匄は抵抗せずゆっくりと倒れた。 　とさり、と敷布に沈んだ体の上に、趙武が身をこすりあわせるように乗っかり喉仏に舌を這わせた。士匄は誘うようにのけぞる。趙武の手がまた胸へ伸び、撫でた。士匄はその手を掴んで、息を吐く。 「……もう、肌は良い、だろう。衣を戻せ」 　らしくなく恥じ入った顔をしたあと、士匄は目を泳がせる。外気にさらされた肌は心許なく、晒していることが辛い。趙武がそのさまを見下ろし、首を振った。 「もっと、触らせてください。私はまだ足りないのです。もっと私の想いをそそぎたい。あなたはそのぶん心をくださるのでしょう。私に、もっとください」 　趙武の唇が今度は胸に落ち、筋に沿って舌が這う。肌をなぞっていくぬるりとした感触に士匄は小さく身を震わせた。たおやかな手が胸板をまさぐり、乳頭をつまんだ。先程散々いじられたほうで、士匄は思わず腰を浮かす。くりくりとこよりでも作るように擦られているところに、もう片方の乳頭を舌先でつつかれた。肌が粟立つような痺れが脳を貫くように走った。 「んっ」 　思わず声が出て、士匄はとっさに己の口を手で押さえた。声を抑えたかったわけではなく、恥ずかしかったわけでもない。単に驚いたのである。趙武が少し顔を上げたが、特に問題ないと思ったのか、すぐに乳輪にすいつき、己の行為に没頭していく。士匄は息をつき、甘い痺れに耐える。ちりちりと灼くような悦が体を静かに浸していった。 　趙武が歯で乳頭をやわらかく噛み、指腹で乳頭を潰すようにこすりつけられ、士匄はまた 「んっ」 　と甘い声をあげた。生まれてこのかた、乳頭なんぞいじられたことがない。士匄は思わず己の顔を手で覆った。指に頬の熱さが移る。痺れが脳髄をじわじわ侵食しているようであった。 　趙武が身を起こし、潤滑剤がわりの膏薬に手を伸ばすと、 「范叔(はんしゅく)。足を開いてもらえますか？」 　と、言った。士匄は頷き、足を開きながら膝を立て、秘部全てをさらけ出す。趙武が士匄の奥へ手を伸ばし、窄まった穴を押すように膏薬を塗りつける。柔らかくなるよう、何度も膏薬を塗っては指で押し、もんだ。具合を見計らって指を入れていくと、すっかり慣れた士匄の肛門は、とろけながら受け入れていく。士匄はほぐすようにかき混ぜられながら、前立腺をなでられ、は、と喘ぐように息を吐いた。 　趙武が体を倒し、奥を指でいじりながら、士匄の胸に口づけをした。そうしてまた乳輪を舐めて乳頭を吸う。舌先でつつかれ、歯をたてられ、敏感な中を指の腹でなぞられ擦られ、士匄は腹の奥がせつなくなり、首を振った。 「そ、れ、……あっ、だ、めだ、は、あ、ダメ……っ」 　指でなされる直接的な疼きと、舌で弄ばれる迂遠な痺れに耐えられず士匄はじわりと涙を浮かべながら身をよじる。元々、耐えることが苦手な彼にとって、切なさだけが増す愛撫は焦らされているに近く、いっそ拷問のようであった。 　ぞりぞりと粘膜が乳頭をなぞれば、甘い痺れがじんじんと広がり、士匄は己の指を噛みながら、は、は、と息を吐き、なにかに耐えた。何に耐えているのか己でもわからない。もしかすると趙武から注がれる重い情に潰されぬよう、耐えているのかもしれぬ。 「ん、ふっ……っ、ぅ、んっ」 　鼻にかかった、ともすれば媚びたように聞こえる喘ぎが漏れ、士匄はむずがるように頭を振った。奥の快楽に耽溺しているときならともかく、未だ理性の濃いこのときに、勝手に感じ入った声が漏れ出すのは、妙な気恥ずかしさがある。 　そんな士匄を揶揄することもなく、趙武が丹念に乳輪や乳輪を舌で愛撫し、指で穴をほぐしていく。ぐりぐりと押されたあと、前立腺をとんとんと叩かれ、士匄は、あっ、あっ、と嬌声をあげた。腰が重く茹だるような悦びが、逆に心許ない不安をかきたて、涙が勝手にあふれすすり泣く。 「あっ、あ、ぅ、あー」 　ひくひくと体を震わせながら、士匄はとろとろと吐精した。中から押し出されたそのものの、勢いなく溢れ出た精液は、ぽとりと体に落ちたり陰茎をつたって流れたりと、士匄の体を汚した。 　趙武が身を起こし、指を抜いた。腿を撫でながら、唾液で濡れる乳頭を触る。赤く腫れたように染まった先を爪で弾かれ、士匄は身をよじらせた。 「范叔(はんしゅく)……かわいい……」 　少し感情が欠落したような声でぽつりと呟くと、趙武が士匄の股に深く割入り、己の陰茎を指で持ち亀頭を肛門の縁にひっかける。そうして、問答無用に男根を入れ腰を進めた。士匄は待ち望んでいた質量に歓喜し、あー、と鳴きながらのけ反った。