45 / 48

第45話 好きな人にいやらしいこと

 穴が柔らかくなってきたと判断したらしく、趙武(ちょうぶ)が違う感触の膏薬を塗りたくり、今度は指でこじ開けた。先っぽを入れては、膏薬を塗る。少し粘度の落ちたそれは、するすると穴の中に入っては馴染んだ。 「ふ……あぁ……」  士匄(しかい)は思わず鼻にかかった声を上げた。趙武が士匄の胸に腕をおいて、互いの身を支える。浅い場所で広げるようにかき混ぜると、士匄が、あっ、と身を震わせ趙武の頭を抱いた。 「……別に疑ってなんていませんでしたけど……本当に頑なで、私の癖以外何もなくて、嬉しい」  趙武が指を少しずつ深くつっこみ、かき混ぜながら笑った。 「だっ、おまえ、だ、け、あっ」  頭をかき抱き、その頭頂に顔を埋めて士匄は叫んだ。趙武が士匄で発情している、その臭いがしていることに、嬉しさで達したくなる。触られていると、遠い日々が美化も伴って士匄に重なった。 「嬉しいです」  趙武の声音は華やいでいたが、士匄ほどの陶酔は無かった。ただ、遠慮はしない、という気持ちは含まれていた。  趙武が黙って士匄から指を抜くと、前方に引き倒す。己の体は避けて、士匄だけを床に倒そうとした。士匄は、壮年になっても運動神経は高いため、とっさに手を出してぶつかるのを防いだ。自然、四つん這いの姿となる。 「おい、趙孟(ちょうもう)! いきなりなんだ!」  先程までの陶酔はどこへ行ったのか。士匄はすぐさま腹立たしさそのままに吼えた。例えば後背位をするにしても、二人の体格差で満足なものはできない。なんの意味があるのかと、水を差された気持ちもあり、士匄は口をとがらせた。 「范叔(はんしゅく)は久しぶりですから、たっぷりと。ええ、女の子みたいに濡れないと。私のお嫁さんですから、言うこと聞かなきゃメッです、メッ」  お前、何を、と騒ぎ立ち上がろうとする腰をグーで上から打ちつけ、趙武が後ろから士匄の衣をめくった。壮年のわりにはたくましい、青年の頃を考えると柔らかくなった尻たぶを片手で掴みかきわけ、酒器の注ぎ口を熟れ始めた穴に突っ込んだ。じょうろ、急須、銚子、まあだいたいそんな形に似たものと思えば良い。とぷ、とぷ、と粘性を帯びた液体がなんの遠慮もなく一気に入る。士匄は、 「ひっ」  と、目を見開いて悲鳴を上げ、敷布を掻き抱くように握りしめた。 「やっ、ちょ、趙孟っ、なに? あ、やだ、やめっ」  必死に後ろを向いて叫ぶが、角度から何が起きているかわからず、士匄は半泣きで喚く。趙武がそれをどこゆく風と涼しい顔をしながら、士匄の尾骨を撫でた。一度酒器を抜くと、今度は指でぐちゃぐちゃになったそこをかき混ぜる。ここまでの液体を以て愛撫などされたことはない。士匄は内ももを震わせ、は、と発情の息を吐いた。このまま早く貫かれて揺さぶられて、とまで考える。久しぶりでも体は快感を覚えているものだった。  しかし、趙武の粘っこい容赦なさも相変わらずである。再び士匄の中に粘液を入れ込んでいく。入れ込んでは、指で具合を確かめるように愛撫する。士匄は頭がすり切れそうになっていった。 「や、あ、趙孟、いれ、いれて、趙孟の、あっ」  何度も訴えるが、趙武はハイハイ、としか言わぬ。それが欲しくて来たのに、とも叫んだ。 「……あなたは敵に対して平気で酷い詐術も弄される。私にする、とは思いませんが、人は何をしでかすのかわからぬというも世の中です。先ほどお約束しましたね。私の上で自分でちんこ入れて腰を振ってきもちよくなる。私の欲しいのでしょ」  趙武の言葉に、士匄はできるか! と間髪入れず叫んだ。趙武がため息をつく。尻への愛撫をやめると、頭のそばに来て身をかがめた。 「仕方がないですね。以前の私ならそう言います。でも、こんな役得をさすがに逃しません。あなたは、傷つきたい。今以上に屈辱と屈服で私に傷つけてほしい。そして慰めて甘やかして。極めて都合の良いお話を通されるんだから、私の役得とすり合わせていきましょう。あなたは今日、淫乱好色にも私に犯してくださいと願い出た。十五年以上経ってもちんこ狂いのあなたは、私の上に乗って、自分で入れて、快楽に酔いしれる。そのために私にすがってきたのです、無様で無粋、被虐趣味。それが今のあなたということでいいじゃないですか。その後は、あなたの望むだけ慰めます」  役得と言うが、趙武にとって今の士匄を抱くことにどれほどの役得があろうか。士匄はそれをどこまで考えたか。 「芍薬(しゃくやく)は詐術ではない」  ぼんやりとした目を向け、士匄は言った。これだけは、言わねばならぬと思った。 「わかってます。では、お願いします」  趙武が士匄の手を取ると、立ち上がらせた。その代わり己は寝転ぶ。士匄は意を決して趙武にまたがり、そのすそを割った。ぐ、と血管が浮き出た怒張が現れる。 「……なんだ、興奮しているではないか」  思わず出た呟きに、趙武がみるみる頬を染めた。 「好きな人にいやらしいことしてたら、そりゃ勃ちますよお」  三十路も終わろうとする趙武の中の、二十そこそこ初恋の未熟者が、恥ずかしさのあまり首まで肌を赤く染めた。壮年の士匄は、二十半ばの青年丸出しで照れてしまい、こちらも耳まで赤くなった。

ともだちにシェアしよう!