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序章

 ──それは、愛ゆえに死に至る竜の病。    古より麗国に加護を齎す真竜は、数百年から千年生きる長命種であり、恋をすれば一途にただひとりを想い続ける。  その執愛ともいえる片恋の想いが、やがて病を呼ぶ。  一枚、また一枚と。  痛みと共に少しずつ剥げ落ちる落鱗が、黒色に染まったなら末期の証だ。  残された時間はおよそ百年。  病は進むにつれて、だんだんと想い人の顔だけが見えなくなり、やがて顔すら思い出せなくなる。  鮮明に覚えている想い人の声と、心に巣食う『好き』を(よすが)に、生命尽きるまで過ごすのみ。   治療方法はふたつある。    ひとつは片恋を叶えること。  もうひとつは、片恋そのものを記憶から抹消させること。    想いを伝えるつもりはなかった。  迷惑になるだけだと分かっていたから。  好きだという言葉も。  どこにも行かないでほしいという思いも。  全て心の奥へ呑み込んで。  (貴方は人だから……どうか貴方が天寿を全うするまで、想わせて欲しい)     その後は自分らしく潔く、静かに散っていくから。  どうか。      

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