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第11話

「ほら、さっさと乗れって」 「痛い! 痛いな!」 大通りで止めたタクシーに、壱規が駄々をこねる俺を押し込んだ。 「まだ帰りたくないんだって……」 「なんでだ?」 「……言いたくない」 「はぁ? 子供か」 「うっさいな……」 さりげなく手握ってんじゃねぇよ! 壱規のくせに! 俺が帰りたくない理由はこいつだ。口では憎まれ口を叩くのに手を握ってきたり、俺が酔ってると文句をいいながら介抱する。そして俺をこれでもかという程甘やかす。そんな壱規に俺は堪えられないでいる。今までされた事がないからだ。 この前だって、その前だって、執拗に身体を触りやがって……しかも最後までしないっていい大人が歯痒くてどうにかなりそうだった。そんな鬱憤を他で発散しようとしても、壱規が先回りして俺を連れ帰るもんだからお陰で俺は欲求不満だ。 「着いたぞ降りろ。おまえが降りないと俺が降りられない」 「そっちから降りればいいだろ!」 「こっちが狭くてドアが開けられないから言ってんだ! おまえ! いい加減にしないとキスするぞ!」 「壱規のくせに出来ねぇ事言うな!」 壱規は俺を引き寄せた。 え…… 本当にしやがった!! 「止めろ! ばっ馬鹿かおまえ!」 逃げるようやなタクシーを降りた。壱規の顔が見れないとか年甲斐もなく動揺してしまう。

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