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第10話

マスカラ、アイライン、口紅……化粧して女物の洋服を着たらあの人に似てる……そう思い込んで始めた新宿二丁目にある女装バーのアルバイト。 あの人のような長い黒髪のウィッグを被り鏡に映る自分を見る。 全然似てないじゃないか…… 「はぁ……馬鹿げてる」 でも……こうでもしないと堪えられない。 「さとこさ~~ん、指名入りましたよ」 「は~~い、今行きま~〜す」 さとこは長い髪を手ぐしで整え店に出た。ここに不似合いの男が来ていた。店の前で酔い潰れていた男を介抱した。その男がどうも私を気に入ってくれて、この店に来てくれるようになった。出て行った嫁に似てると言ってた。なんだか訳ありのようだけど…… その親友という人が彼を迎えに来て以来、親友という男の方がここへ来るようになっていた。 さとこはグラスにオーダーの飲み物を作り彼の前へ出した。 「何回も言ってますが、邦正さんとは何もないですよ」 「本当に? 君みたいな綺麗な人にあいつが手を出さない訳がない」 この男は育ちの良さそうな身なりでこの店にやってくるが、不釣り合いなのが分かっているのかいないのか、多分そんな事気にしていないといったところか。彼の気になるのは私と邦正の関係のようだった。 「何もないですよ。私はバイトなんで」 「じゃ俺が口説こうかな……」 また嘘言って……好きなのは邦正さんなくせに…… 「へぇ……別にいいですけど」 店のドアが開いた。噂の彼がカウンターの男を見るなり彼に絡み始めた。 「おまえ! さとこさんにちょっかい出すなって言ってるだろ!」 「こら! おまえまた酔ってんなったく、酒癖悪過ぎだろう」 「さとこさ~~ん! 俺も壱規と同じの一つね」 「はい、かしこまりました」 「邦正、止めとけ帰れなくなるぞ」 「大丈夫だ。おまえが連れて帰ってくれるんだろ?」 「酷いと置いて帰るぞ!」 「壱規はそんな事しないよなぁ?」 あ……どうみてもイチャつきに来てるとしか思えないんだけど、本当いい迷惑! 「はい、どうぞ邦正さん」 「ありがとう、さとこさん」 「おい! そんな飲み方するな」 「五月蝿いなぁ~~」 あ! もう! 勝手にやってなさいって! 「邦正それ飲んだら帰るぞ」 「もう一杯飲む!」 「ダメだ! これ、さとこさん置いとくね」 「はいはい、毎度ありがとうございま ~~す」 見せ付けるだけ見せ付けて帰って行くんだからさ…… でもあの人、大切だった人に少し似てる____

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