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#05
帰り道で楽しそうに笑う透也とその彼女を見て拳を握る。
少し伸びた爪が掌に食いこんで痛い。
そこに血が滲んでいるのを知ったのは二人が遠くに行ってから。
透也が彼女を選んだ日から、僕は選ばれなかった方と知る。
僕はずっと透也だけを見てたのに、後から来たその子に一瞬で奪われた。
透也といる時間も、透也の目線も、透也の心も。
その事実がどうしても受け入れられない。
なんで、と思うたびに腕に傷が増えていく。
切っても切っても腕なんて少しも痛くなくて、痛いのは心だけ。
僕がもっとはやく告白していれば透也の横には僕がいたの?
僕の透也に対する“好き”は間違いなく歪んでいる。
もうそんなことは分かってる。
分かっていても止められないから、自分でももうどうしようもないんだ。
自分か透也、自分と透也、そのどれかが壊れるまではきっと僕は歪んだまま。
画面の割れた携帯でメッセージアプリを開いて透也に送る。
――明日の放課後、少し話したい。
すぐに既読がついて笑顔のスタンプがおくられてきた。
透也はずっと変わらない。僕だけがずれて歪んだだけ。
あの日のしみは白いところなんて一切残さずに壊れた歯車に巻き込まれていく。
あぁそうか、僕はもうとっくに壊れていたんだね。
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