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 馬場で馬を少しだけ眺めた後、昴は放牧場へ向けて小型EV車を走らせた。  豪邸の敷地内は、歩いて移動すると時間がかかり過ぎるのだ。  ちゃんと運転手付きの自動車に乗りなさい、と過保護の父親から言われるが、昴はよく一人で行動した。 「僕は自由でいたいし、縛られるのは嫌い」  そんな、まだまだ子どもっぽい理由からだった。  それでも上手に運転し、EV車は無事に放牧場へ到着した。  昴は軽やかに車から降り、まずは深呼吸。  広い放牧場は、青草の香りで爽やかだ。 「馬は確かに美しいけど。臭いは、苦手なんだよね」  あれを我慢して、馬に跨るか。  それとも、走る馬を眺めるだけにしておくか。 「どうしようかな。これは、難しい問題だぞ」  物思いに耽りながら、昴は牧草を食む馬を眺めた。  遠くに、点々と憩う馬たち。  のどかな光景だ。 「この後、僕はどうなるんだったかな。うまく思い出せないや」  何度も繰り返して来た人生の一部分を、昴ははっきりとは覚えていない。  冥界のお偉いさんたちに試されているのだ、とロキは言っていた。  記憶が鮮明ならば、簡単に運命を変えてやり直せる。  それでは、ヒトが本当に障壁を乗り越えられたのか判らない。  本当に徳を積んだか判らない、というのだ。 「全く、迷惑な話だよ」  ふん、と鼻を鳴らし、昴は唇を少し尖らせた。

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