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しばらくすると、昴のたたずむ柵の近くに、二頭の馬がやって来た。
大きな馬と小さな馬が、寄り添っている。
おそらく、親子だろう。
スキップでもするように、楽し気に跳ねる仔馬を、母馬が優しく見守っている。
心和む、安らぎのひとときだ。
「見ている分には、ホントに美しいんだけど」
そう独り言をつぶやいた、はずだった。
まさか返事が戻ってくるとは思わなかったのだ。
「馬は、あの匂いが良いのですが」
聞き慣れた、穏やかな低音。
いつも優しい響きを持つ声。
忘れようにも忘れられない、頭ではなく心で覚えている声の主。
それは、柏 暁斗(かしわ あきと)だった。
昴のスケジュール管理や、身の回りの世話をする、専属執事だ。
「あ、暁斗!?」
途端に昴は緊張した。
彼こそが、昴の想い人なのだ。
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