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 暁斗の部屋のドアを叩く昴は、彼が不在とは、これっぽっちも考えていない。  この僕の訪問に、留守などあってはならないのだ!  傲慢な考えを巡らす彼に応えて、すぐにドアは開けられた。  そのドアの向こうには、藍の浴衣を着た暁斗が立っていた。 「これは、昴さま。どうなさいました?」 「……その恰好は、何だ?」  ちぐはぐな昴の受け答えだったが、浴衣を着流した暁斗は、気軽に返事をした。 「くつろぐ時には、これが落ち着きますので」  日中は、タキシードをピシリと着ている暁斗。  それが、夜にはこんなにラフな姿をしているなんて、反則だ。  ギャップ萌え、というやつだ。  昴は暁斗に、ついつい見蕩れてしまっていた。 (はっ! こんな場合じゃない!)  暁斗の夜遊びを、止めさせなくては!  本来の目的を思い出し、昴は彼の横をすり抜けた。  黙って勝手に室内に入り込んでいく昴を鷹揚に迎え入れると、暁斗はドアを閉めた。  こんな彼は、今回が初めてではないのだ。  また何か、新しいわがままを言い出すに違いない。 (しかし。今夜は、酔っていらっしゃる……?)  この状態でやって来た昴は、初めてだ。  そこで暁斗は、グラスを二つ用意した。  愛飲のモルトウイスキーを手にし、軽く掲げて見せた。 「よろしければ、ご一緒に」  すでに酔っている様子の昴に、さらに酒を勧めてみる、暁斗だ。  何か酔いたいことでもあったのかな、と彼は考えたのだ。  まさか、その原因が自分にあるなどとは、思ってもみなかったが。

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