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 部屋を降りて、一階の大広間へ行けば、まだシェフが居る。  栄養のバランスを考えて作られた、ちゃんとしたディナーが食べられる。  しかし昴は、そんな気になれなかった。  のんびり食事を摂る気が、しなかった。  パンをモグモグさせ、ワインで喉へ流し込みながら、彼はやはり暁斗のことを考えた。  美しい僕には、質素すぎるこの食事。 「それもこれもみんな、暁斗のせいなんだ!」  そこで、ふと彼の言葉が思い出された。 『そういえば、私も最近ご無沙汰です。今夜あたり……』 『どうです? 御一緒に』 『そうではなくって。一緒に遊郭へ遊びに行きませんか、という意味です』  昴は何だか、そわそわと落ち着かなくなってきた。 「行くのかな、妓館に」  あの長い髪を解いてベッドに散らし、黒曜石のような瞳で抱かれる遊女や陰間を見るのかな。  何とも言い難い悔しさが、昴の胸に湧いてきた。 「えぇい、もう! 暁斗なんか!」  いつもなら1杯で済ませるワインを、2杯3杯とあおる、昴だ。  そして、すっかり酔っぱらってしまった彼は、ふらりと立ち上がると部屋を出た。  行き先は、暁斗の住まい。 「暁斗みたいに美しい男が、妓館遊びなんかしちゃいけないんだ!」  ちゃんと清純な恋人を持って、心から愛して……愛して……。 「ん? あれ? 僕は、何か大切なことを忘れてるような?」  7回目の死に戻りで、今度こそ暁斗と結ばれたい。  これが、ラストチャンスなんだ。  酔った頭では、そんな大事なことを考えるのは難しい。  ただ昴は、その酩酊した思考のまま、執事の間へと乗り込んだ。

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