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 昴が目を覚ましたころは、すでに宵の口だった。 「ちょっと、寝すぎちゃったな」  ベッドから降り、昴はドレッサーの鏡に顔を映した。  やっぱり、少し腫れぼったいようだ。 「美しい僕の顔が、台無しだ!」  足音も荒く洗面化粧室へと進み、ハーブエキスを混ぜた冷たい水で顔を洗った。  ようやくハッキリし始めた、寝起きの頭。  だがそこには、まだ暁斗の姿が残っている。  昴をお子様扱いして、セクシャルなからかいを仕掛けた声が、言葉が残っている。  あれを忘れるために、わざわざふて寝したというのに。 「フン! 暁斗なんか、もう知らないよ!」  わざと口に出して、その場にはいない執事を罵ってみる。  そして、昴専用のダイニングへ行き、食材の保管庫を開けた。  専属のシェフたちは、もう勤務時間を終えて自分らの部屋へと戻っている。  仕方がないので、昴は自分で棚を探った。 「ロングライフパンが、ある。これでいいや」  米粉入りの天然酵母パンを2種類ほど手にして、テーブルへ戻った昴は、それらを皿に乗せた。  美しいものは好きだが、美食に耽る趣味は持たない、昴だ。  パンに果物とワインを添えて、簡単な夕食を摂った。

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