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 笑いを収めて、暁斗は昴の目を覗き込んだ。 「まずはバラを贈って、そして初めはキスからで。それも、ちゃんと同意を得て、でしたね」  放牧場での昴の言葉を、暁斗は覚えているのだ。 「ぼ、僕は、その。暁斗が、あの……」 (これ以上は、無理!)  返事の代わりに、昴はさらにワインを飲んだ。  ぐいぐいと、一気にあおってしまう彼に、暁斗は眉をひそめた。  これ以上飲ませるのは危険、と感じたのだ。 「昴さま、少々お待ちください」  つい、と窓際に向かった彼は、すぐに戻って来た。  手にしているのは、バラのドライフラワーだ。  こほん、と咳をひとつ。  それから芝居がかった身振りで、暁斗はドライフラワーを昴に差し出した。 「バラを、昴さまに贈りましょう。それから、口づけしても良うございますか?」  暁斗の言葉に、昴は固まった。  その手から滑り落ちたグラスが、床の上でごとんと音をたてた。 「え!?」  あまりに突飛な暁斗の言動に、頭の中は真っ白だ。  心臓が、張り裂けるほど打っている。  これは、酔いのせいじゃない。 (僕は。僕は……!)  だが暁斗は、そんな昴を軽くいなした。  手にした花をくるくる回して、ぽん、と額を軽く叩いたのだ。 「キスが嫌なら、もうお酒はおしまいにしませんか? そして、ぐっすりお休みなさいませ」  やはり暁斗の方が、昴より一枚も二枚も上手だった。

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