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 どこまでも、昴を子ども扱いしてくる暁斗。  悔しさと恥ずかしさが、昴の心から溢れ出しそうだった。  これまでの彼なら、ここで癇癪を起して、大声で喚き散らすところだ。  甘い父親に、三倍増しにした告げ口をして、痛い目に遭わせてもらうところだ。  しかし7回目の彼は、押し留まった。  暁斗が手にしている、バラのドライフラワー。  そこに、気づいたのだ。 「そのバラ……もしかして、あの時の?」  昴は以前、まだ藤原邸に来たばかりの暁斗に、バラをプレゼントしたことがある。  一本だけ。  一度だけ。  気まぐれの優しさのはずだった。  ああ、それなのに。 「……まだ、こんなに大切に持っていてくれたなんて」 「あの時は、嬉しゅうございました」  珍しく、暁斗が照れている。  わずかにうつむき、瞼を伏せ、口の端を上げている。  その姿に、とくん、と昴の胸が疼いた。  キスなら、した事がある。  僕だって、学生時代に付き合った恋人たちと、キスならやった事がある。 (今度こそ、僕が暁斗を困らせてやる番だ!)  昴は、暁斗に一歩近づくと、彼に向って唇を突き出した。 「いいよ、キスしても」  さすがにこれは想定外だったのか、暁斗はぴたりと動きを止めた。

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