97 / 226

3

「これを、昴さまに」  一日を終え、自室へと戻ろうとする昴を、呼び留める声がする。  顔を見なくても、わかる。  この、低くて柔らかい響きは、暁斗の声。  振り返ると、手に小さな花束を持った暁斗が立っていた。  息を呑み、心の中で昴は感嘆の声を上げていた。 (あの暁斗が、僕に花を!?)  赤いバラの気分の僕に、花束を渡してくるなんて!  それは、白くて可愛い、カミツレソウの花束だった。  花を買いに出る余裕など、多忙な暁斗には無いはずだ。  スキマ時間に、自生の花をその手で摘んでくれたに違いない。  それを証拠に、リボンではなく、粗野な紐でくくってある。  それでも、昴は嬉しかった。  生真面目だが、洒落たことは苦手な、暁斗。 (そんな彼が、僕のために花束を……!)  花を受け取り、昴は暁斗と二人で、仲良く執事の間へと向かった。  彼の心は、すでに暁斗の部屋にとどまる気持ちだ。  二人で、愛を確かめ合う気持ちだ。  にこにこと、お喋りなどしながら、ゆるりと歩いた。  だがしかし。

ともだちにシェアしよう!