126 / 226

12

 藤原家に仕える使用人の婚姻は、許されている。  いや、むしろ推奨されている。  優秀な血統が未来に続く事を期待され、またその子孫が藤原家に仕える事を期待されるのだ。  だから適齢期になると、当主が結婚を勧めてくることが常だった。  暁斗も例外ではなく、これまで何度か結婚話を持ちかけられたが、そのたびに受け流してきた。 『私には、この藤原家より他に大切なものは必要ございません』  そう言って、断ってきた。  そして、昴もそれを知っていた。  暁斗が縁談を断るのは僕の為だ、と、嬉しく思っていたものだ。 「……暁斗」  昴が口を開いたので、暁斗は自分の頬に当てた彼の手を握った。 「僕は、何のために生まれてきたんだろう」  返事を求めている口調ではなかったので、暁斗は沈黙でそれに答えた。 「藤原家の人間として、未来を築くため、だよね」  ぽつり、ぽつりと呟くように話す昴だ。 「家、ってなんだろう。どうして、好きな人と一緒になることが許されないんだろう」  それを思うと、自分はどうして藤原家に生まれてきたのかと、呪いたくなる。  どうして僕は、暁斗を好きになっちゃったんだろう。 (せめて暁斗の子を、この世に残せたらいいのに)  そうすれば、愛する人の血脈をこの世に残せた、と思えるのに。  子どもには、僕の分まで幸せに生きて欲しい、と思えるのに。  だが、それもかなわぬ話だ。  オメガの昴が、執事の暁斗との間に子どもを設けたとなると、藤原家は隠ぺいするだろう。  暁斗は、厳重な処罰を受ける。  そして昴は、大急ぎで中絶させられ、しかるべき名家に婿入りだ。  昴は、途方もない絶望感にさいなまれていた。

ともだちにシェアしよう!