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 黙ってしまった昴だが、暁斗は優雅にささやいた。 「今宵は満月です」  そして昴からそっと離れると、杯に酒を注いだ。  杯には円い月が揺れながら映っており、昴は酒の香りに、軽く酔った心地を感じた。 (ううん。酔っているのは、暁斗のせいだ)  ひどくのぼせているのは、彼がやけに甘くて強い言葉を、さんざん飲ませてくるからだ。  昴が見守る中、暁斗は杯の中の満月を飲んだ。  一口、二口、そして三口。  三度に分けて、飲み干した。  そしてもう一度、杯に酒を注ぐと、今度は昴によこしてきた。 「私のやったように、三回に分けて飲んでください」  月が満ちる時、人は生まれるという。  潮が満ちる時、人は生まれるという。 「あなたの中に、私という人間を宿してほしいのです」  それは、昴の心に深く染み入った。 (あぁ、本当に今夜の暁斗は、どうしちゃったんだろう)  いつもの昴なら、照れ隠しに彼を茶化すところだ。  生真面目な暁斗の誠意を、愛の言葉を、笑って済ませてしまうところだ。  だが、今夜の昴は素直に酔った。  酔った自分を、さらけ出した。

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