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「暁斗、ったら。1階南口の、時計台の前で待っててね、って言ったのに」
「一分一秒でも早く、昴さまにお会いしたくて。それで」
「……その『昴さま』も、もう止めようよ」
「あ、これは、つい……」
離れ離れになった二人だが、昴の父は電話やメールなどは禁じていなかった。
そんな手段を用いながら、昴は暁斗に、敬語を使わないよう促してきたのだが……。
「電話では『昴、会いたい』って言えてたのに」
「ご本人を前にすると、癖が戻ってしまって」
仕方がないな、と言いながらも、昴は笑顔だ。
百点満点の、笑顔だ。
「素敵なウェルカムボード、ありがとう。すぐに解ったよ」
「私は、絵が不得手で」
「ううん。馬や、バラ。僕が好きなもの、ちゃんと覚えててくれたんだね」
「たった半年ですよ? 忘れようがありません」
そんなこと言って、と昴は少し意地悪な表情を作った。
「留学してすぐは、一日に何度もメールを寄こしたくせに」
「あっ……」
「時差も考えないで、何回だって電話したくせに」
「うっ……」
返答に詰まった暁斗だが、笑顔だ。
嬉しくて、心がはちきれそうだ。
「昴の、そういうところは変わらないな」
「おぉ!? 言えたね!? 対等の会話」
「そんな減らず口は、私が塞いでしまおう」
「うん……いいよ」
二人は抱き合って、キスをした。
温かく繋がり、心も一つに重ねた。
時が、瞬く間に埋まっていく。
さあ、二人でこれから、どこへ行こうか。
二人の未来は、未知数の可能性に満ちていた。
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