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安心の仕方

 彼らから逃げるように、視線をベッドへと落とす。 「あれは生理現象ですからね。何も気にしなくていいんですよ」 「大丈夫だよ。だいたい、どの患者さんも同じようになるから」  治療のあと、体はほわほわと温かいのに、心だけが冷えていた。  ──お漏らし、してしまったのだ。  成人済みの、しかも男が。  恥ずかしさが胸いっぱいに広がって、久我先生と佐伯さんの顔を、どうしても見られない。 「んー……あまりにも嫌なら、次からは終わるまで抜かないようにしようか」 「え゛っ!?」  そこは「じゃあ、この治療はやめよう」となるところではないのだろうか。  思わず顔を上げると、久我先生は苦笑していた。 「あれは段階で決められてるからね。『痛い』とか『苦しい』がないなら、続けたほうがいい」 「ぅ……」 「今回は前だけだったけど、次からは後ろからも刺激していくよ」 「……」  優しい声で、恐ろしいことを言う。  治療のためだと分かってはいるけれど、気持ちが追いつかない。 「今日はゆっくり過ごしてもらって、明日は様子を見て、治療するか休むか決めようか」 「……はい」  俯いたまま、二人が部屋を出ていくのを確認する。  カードキーを手に取ると、急に誰かと話したくなった。  ──あの場所に、静香君がいたらいいな。  そう思いながら廊下を歩くと、ソファーに座っている人物が目に入る。  それは、まさに自分が会いたかった静香君だった。 「こ、こんにちは」 「? ……あ、由良さんだ」  ふんわりとした空気を纏う彼の隣に、そっと腰を下ろす。 「どうかしたんですか?」 「……治療で、ちょっと」 「あらぁ。嫌なこと、ありました?」 「……あの、静香君は……えっと……」 「?」 「……ま、前から、こう……いれて……」  言葉にするのが難しくて、声が小さくなる。  正直に言って、引かれたらどうしよう。 「ああ、ちんちんから前立腺刺激する治療?」 「っ!」 「僕ねぇ、あれ好き」 「す、好き……!? そ、そうなんだ……」 「最初は怖かったけどさ。今は好き。……考えられなくなるよ」  きゅっと手を握る。  最初は……ということは、もう何度も彼はそれをしているということか。 「由良さん、今日、その治療だったの?」 「うん。それで……」 「あ、もしかして漏らした?」 「っ!」 「それで落ち込んでたの?」  俯けば静香君の手が背中を撫でてきた。 「大丈夫ですよ。先生達は慣れてるし。僕なんて今でもわけわかんなくなって漏らしちゃうし」 「……そうなんだ……?」 「病棟のルールさえ守っていたら、誰も怒らないし、引いたりもしないから、安心して」  柔らかく微笑んだ彼。年下なのに少し、甘えたくなる。 「俺……前だけで、わかんなくなって、だから次からは後ろからもって言われて、怖くて」 「んー……でも、後ろは今までもされてるでしょ?」 「う、うん」 「気持ちいいだけ。気持ちいいのを怖いって思うんじゃなくて、素直に受け入れたらいいんだよ」  そのまま抱きしめられるとホッとした。 「怖くて仕方ないなら、先生や看護師さんに抱きしめてもらうのもいいかも」 「え?」 「今って、施術台に拘束されてしてるでしょ? 怖いから抱きしめてやってほしいって言ってみたら? 俺は初めての内容の時は抱きしめてもらってるよ」  そんなこと、してくれるのかな。  いやでも、抱きしめてっていうのも恥ずかしいし。  そんなふうに悩みながら静香君の腕の中で落ち着いていると「神木さーん」と佐伯さんの声が聞こえた。  顔を上げると、こちらをニコニコ見ている佐伯さんの姿があって。 「あの人、由良さんの担当の看護師?」 「ぁ、うん。佐伯さん」 「佐伯さーん。由良さん、怖いんだって。次から抱きしめてさ、そのまま施術してあげてよ」 「っ! 静香君……!」  恥ずかしいのに!  そう思って彼の口を両手で塞いだけれど、佐伯さんは何事も無かったかのように「わかりましたー!」と返事をしていてギョッとする。 「先生にも話しておきますね」 「ぁ……」 「触りますよ」    伸びてきた佐伯さんの手に手を取られ、軽く引かれる。  促されるように立ち上がった。 「一度病室に戻りましょう。もう少しで夜ご飯ですよ」 「わかりました。──静香君、ありがとう」 「いえいえ〜。また話しましょうね」  手をヒラヒラ振ってくる彼に手を振り返した。

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