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寂しいと言えた日

 病室に戻ってすぐ、佐伯さんに名前を呼ばれて顔を上げた。 「施術中、感じてることを教えて貰ってもいいですか?」 「ぁ……え、っと……」 「さっき仰ってた"怖い"はもちろん、他にも感じてることはありますか?」  優しく尋ねてくる彼に、手をギュッと握る。 「さ、寂しくも、あります」 「寂しい……それはどういう時に感じますか? 例えば……そうだな、達した後温かいと同時に襲ってくるとか……」 「あ……」 「そんな感じ?」 「そ、そうかも、しれない……」  ふむふむ、頷いた彼が「ちょっとお邪魔しても?」とベッドをトントンと叩いた。頷けばそこに腰掛けた彼が、「手を触りますね」と、握ったままだった手を取っていく。 「今話したことを、先生に伝えても良いですか?」 「ぅ……久我先生は、困りませんか……?」 「そんな、困るわけないですよ。神木さんが教えてくれて、むしろ嬉しいに決まってます」  優しい笑顔にホッとする。  繋がれた手は温かい。佐伯さんの手が温かくて、冷えたそこに温もりが分け与えられる。 「明日の治療は、どうしましょうか。無理せず、ただこうしてカウンセリングみたいに久我先生や私とお話しするのもいいですね。言葉なんて選ばなくていいから、思ってることをそのままぶつけてもらう。神木さんの心が少しでも楽になることを考えましょうか」 「……でも、早く、治さなきゃ」 「焦らなくても大丈夫です。この治療にはそれぞれ患者さん毎のペースがありますから。一度止まって、また再開するのもなんら問題ないんですよ」  そう話していると、コンコンとドアがノックされた。  返事をすればやって来たのは久我先生で、繋いだままだった佐伯さんと自分の手を見て、柔く微笑む。 「落ち着いてきたかな」 「ぁ……」 「少し他の患者さんとお話してたみたいです。それで……今、話しちゃっても大丈夫ですか?」 「ぁ、あ、は、はい」  久我先生を見ていた佐伯さんは、一瞬こちらを振り返り、そして頷いた。 「治療中、怖いと思ってしまうようで、できれば拘束するんじゃなくて、ハグ……抱きしめた状態で、施術したいと」 「うん」 「それから……達した時、温かさと同時に寂しさも襲ってくるようです。これはまあ……正常の範囲内ですが、それが積もり積もった時のこともあるので──」  佐伯さんの話を真剣に聞いた久我先生は、「俺もお邪魔しちゃおうっと」と、佐伯さんとは反対側、ベッドに腰を下ろして「失礼します」と空いていた手を取ってくる。 「佐伯にそこまで話してくれたのが嬉しいですね。でもそれと同時に少し嫉妬しちゃうな……。仲良くなったんだね」 「ぁ、ぃ、いえあの……佐伯さんが、優しいから……」 「仲良くなりました」 「佐伯さん……!」  ピースをして先生を煽る彼は、ジッと久我先生にふざけたように睨まれてケラケラ笑う。 「じゃあ、次回の施術時には拘束はやめて、抱きしめながらやってみようか」 「ぁ、あ、でも、迷惑じゃ……」 「そんな事ないですよ。大丈夫。それから……寂しいのはね、さっき佐伯も言っていたけど、正常の感覚なんです。中で達していくとそういった感情が生まれてしまう。けどそれも抱きしめていたら落ち着いていくかもしれないから、一つずつ試してみましょう」  手の甲をサリサリと親指で撫でられる。  温かい。温かいけどなぜが、どこか、今この瞬間さえ寂しいと思えてしまうのは、どうしてだろう。 「明日の治療はどうしましょうか。お休みでもいいし──」 「あ、こうしてお話しするのもアリですねってさっき話してて」 「あー、たしかに。ゆっくり話すのもいいですね」  甘えても、いいのだろうか。  しかし話していくことで、心が冷えていく可能性も、無きにしも非ずだ。  初めのカウンセリングの時がそうだったから。 「は、話、しながら……治療、は……?」 「ん?」 「初めて、カウンセリングした時、冷たくなって、怖かったから……」  不安を口にしたら、彼らは眉尻を下げるようにして微笑んだ。   「教えてくれてありがとうございます。じゃあ、そうしましょうか」 「は、い」 「ただ、治療もするとなるといつもの施術室に入ることになります。落ち着けるように内装は少し明るくするようにするけど、それでも大丈夫かな?」 「大丈夫……」  頷けば、彼らも頷いて、そしてゆっくりと立ち上がった。 「いつでも、なんでも、どんなことでも構わないから、我慢せずに教えてね」 「は、はい」 「じゃあもう夜ご飯の時間だし、持ってくるので、ゆっくりしててくださいね! はい、久我先生も、行きますよ」 「はいはい。じゃあ、また明日」  手を振られ、振り返す。  ホッとしてベッドにもたれかかった。  

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