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第43話 そして隣には君がいる
体の奥が、じんじんと火照っている。
手足は少し冷えてきたが、まだ中には凛太朗の熱が残っていて、動くたびにくちゅ、と音を立ててこぼれそうだった。
腕の中の紫季を、凛太朗はしばらく無言で抱きしめていた。
肌と肌が触れ合う静かな時間。
紫季がぼんやりとした声で「……すごかった」とつぶやくと、
凛太朗は小さく笑って、紫季の髪に口づけを落とす。
「……なあ、紫季」
声がくすぐったいほど近い。
けれど、そのトーンにはどこか焦りのような、照れくささのようなものが混じっていた。
「……その……二回戦したいんだけど……」
紫季は目を開けて凛太朗を見上げた。
「えっ……」
さっき果てたばかりのはずなのに、凛太朗のソレはもう明らかに熱を取り戻していた。
紫季が目を丸くすると、凛太朗は顔を逸らして、つぶやく。
「……しょーがないだろ。紫季が可愛すぎるのが悪い」
「はははっ」と笑い、「お預け、長かったもんね」と言いながら、紫季はすでに完勃ちの凛太朗のソコをツンッとつついた。
「しーきぃー……」
凛太朗は仕返しと言わんばかりに、紫季の乳首をキュッとつねる。
「ぁん……もぉ……凛太朗くん。ピロートークって知ってる?もうちょっと余韻を楽しみなさいよ」
「DKの性欲なめんな。そんなのはじーさんになってからでいい」
言葉はつっけんどんだけど、乳首をコリコリする指は止めない。
「そんな先まで一緒にいてくれるつもりなんだ」
「当たり前だろ?紫季の隣はずっと俺だから」
紫季は、胸元に顔をうずめるように身を寄せた。
「……いきなりプロポーズかよ……」
紫季は胸がいっぱいになり、目頭が熱くなる。
頬に伝わった凛太朗の心音は、紫季の鼓動と同じくらい速くて、あたたかかった。
そして、凛太朗の体に手を回し、ぎゅうっと抱きしめ返す。
ぴたりと肌が重なる感触が、紫季の奥の奥まで甘く満たしていく。
「……で?二回戦、したいんでしょ」
紫季は胸に顔を埋めたまま、小さく笑った。
桜の蕾が膨らみはじめ、春がそっと足元に近づいてくるような、そんな日差しの中――
凛太朗と紫季は高校を卒業した。
誰とも関わらず必要最低限の人間関係で過ごすはずだった紫季の高校生活も、気づけば周りに沢山の人が溢れていた。
無愛想だと思っていた担任も話せば熱く、紫季の進路に懸命に向き合ってくれた。
紫季のクラスは、誰一人として浪人せずに春を迎えようとしていた。
あまり表情を変えない担任が、最後のホームルームで涙ぐみながら話す。
「ぼくから君たちに一つだけ。
“Success seems to be connected with action. Successful people keep moving. They make mistakes, but they don’t quit.”
ぼくが生きる上で大切にしている言葉だよ。
今日まで君たちは本当に頑張った。
第一希望受かった者、そうじゃない者。
君たちの価値は大学だけでは決まらない。
でも、這いつくばって努力した一年は決して無駄にはならない。
卒業おめでとう。
英数科で君たちに会えてよかった。
これからの君たちの幸せを祈っています」
ホームルームが終わり、名残惜しそうに机や窓辺に集まっているクラスメイト。
記念写真を撮る子、アルバムにメッセージを書き合う子、何度も「じゃあね!」と手を振る子……
紫季は荷物をまとめながら、なんとなく教室の隅でその光景を見ていた。
そんな彼に気づいて、真美と由希子がやってくる。
「ちょっと紫季、そっけなく帰るつもりじゃないよね?」
由希子が、いつもの調子で手を腰に当てて睨んでくる。
「……別に。帰るってわけじゃ」
「英数科の王子は最後までそっけないなぁ」
真美が笑いながら頬をつつく。
いつの間にかこの二人とは、こんなふうに話せるようになっていた。
最初は苦手だと思ってたのに、今は少し寂しい。
「紫季ってさ、本当変わったよね。前はさ、全然目も合わせてくれなかったのに」
「ていうか、そもそも“話しかけないでオーラ”出てたし」
「まぁね。人間みんなクソ食らえって思ってたからなぁ」
三人で笑い合ったその瞬間、ふっと空気が止まったような気がした。
「……ねえ、紫季。またみんなで会おうね」
真美がぽつりとつぶやく。
紫季は、一瞬迷ってから小さくうなずいた。
その一言が、思ったより胸に沁みた。
「ま、私と紫季は大学一緒だからね。これからもマブダチ。紫季の大学デビュー見守るぞー!!」
「えー、勘弁して欲しいんだけど……」
三人は笑いながら校門に向かう。
校門には、大荷物を抱えた凛太朗が待っていた。
「じゃあまたね紫季!」
「うちは入学式ね!!また連絡する」
二人はニヤニヤしながら凛太朗を見る。
そして、声を揃えて「お幸せに〜」と言って去っていく。
紫季は「は?」と眉をひそめる。
けれど、その耳がほんのり赤く染まっているのを、ふたりは見逃さなかった————
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