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【1.はじめまして】

桜が咲き乱れていた。 風に乗って舞い上がる花びらを見上げながら、俺は蒼陽(そうよう)学園の校門をくぐる。 今日から始まる、新しい生活。 ほんの少しだけ緊張してるけど、それ以上に、どんな日々になるんだろうって心が躍っていた。 「外部から進学してきました、小鳥遊 優希(たかなし ゆうき)です。 みんなと仲良くできたらいいなって思ってます。よろしくお願いします!」 内部生と編入生が入り交じる教室で、ひとりずつ前に出て自己紹介。 いくつもの視線が一斉に向けられてきて、ちょっと恥ずかしい。 顔が熱くなるのをごまかすように、にこっと笑う。 ――そのとたん、教室の空気がふわっと変わった。 「可愛くね?」 「笑顔かわい〜」 「……あれ、ほんとに男子?」 そんな声が耳に入ってきた。 俺は周りに比べて成長が遅くて小柄で童顔。 明るめの茶髪は猫っ毛で、目はちょっとつり気味の大きな瞳。 声変わりもしたけれど、あまり低くならなかった。 女の子っぽいって言われるたび、なんとも言えない気持ちになる。 くすぐったくて落ち着かない視線の中、急いで席に戻る。 席に戻る途中、教室の後ろのほうで小さく手を振る姿が目に入った。 それを見たら、少しだけ肩の力が抜けた気がした。 ──ここ、蒼陽学園は初等部から高等部までの男子校。 中等部からは全寮制で、それをきっかけに編入してくる生徒も少なくない。 全国的にもバスケの強豪校として知られていて、俺もそれを目指して入ったひとりだ。 全員の自己紹介が終わると、学校生活に関する説明や注意事項が続いた。 そして午後は編入初日の大イベント!寮の部屋割り発表の時間だ。 先生に案内されながら、みんなで寮棟へと向かう。 「ゆきちゃん、同じ部屋になれるといいね!」 俺のことを「ゆきちゃん」と呼ぶのは幼なじみの日向 陸(ひなた りく)。 小さい頃から家族ぐるみで仲が良く、いつも一緒にいる。 さっき教室で手を振っていたのも、こいつだ。 「そうだな!……でもお前いびきうるさいしなぁ」 「えぇ!うそぉ?!」 「嘘だよ」 揶揄うと、陸が軽く小突いてくる。 そんな他愛もない話をしながら笑い合う。 俺たちのやり取りに周りから視線を感じるけれど、 変に気を張らなくていい相手が近くに居てくれるから、自然と表情が緩んだ。 寮棟のエントランスには大きな掲示板があった。 「新入生歓迎!」と大きく書かれた下に、部屋番号と同室になる名前が2人ずつ並んだ紙が、いくつも貼られている。 俺は自分の名前を探す。 「……あった!」 と思わず声を上げてしまった。 ……だけど、隣に陸の名前は無い。 そのかわりに並んでいたのは── 「せがわ、はると…さん…。2年生だ…」 瀬川 悠人(2-A) 小鳥遊 優希(1-C)と書かれていた。

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