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【3.オリエンテーション - 上 -】
朝の光が差し込む部屋で目を覚ました。
新しい環境で眠れないかと思ってたけど、案外すぐに寝つけた。
ベッドがふかふかで、思ってた以上に寝心地がいい。
先輩は朝が弱いらしく、まだ眠そう。
眉間に皺を寄せてボーっとしている。
不機嫌そうに見えるから、もし昨日の印象が怖いままだったら、陸の部屋に逃げてたかも……。
「先輩、おはようございます」
「……おはよ。今日はオリエンテーションか?校舎案内とかあるんだったか…。うちの学校広いから、ちゃんと覚えとかないと迷子になるぞ?」
そう言ってベッドから起きて準備を始める先輩は、やっぱり面倒見がよくて、優しい。
先輩が歩く度に揺れる寝癖に思わず表情が緩む。
俺も制服に着替えていると、玄関がノックされた。
「ゆきちゃーん!迎えに来たよー」
この学校で俺を「ゆきちゃん」って呼ぶのは陸ぐらいだ。
迎えに来てくれたのが嬉しくて、足取りも自然と軽くなる。
「行ってきます!」
そう言って、玄関を飛び出した。
***
【陸視点】
朝、迎えに行くと優希が元気よく出てきた。
良かった、昨日はしっかり寝れたみたいだ。
「ゆきちゃん、同室の先輩どんな人だった?」
と聞いてみると、
「見た目は少し怖いんだけど、笑うと怖くなくなるんだ。色々親切に教えてもらった!」
優希は嬉しそうに笑った。
それを聞いて、俺も「そっか、良かった」と笑って返したけど……
昨日まであんなに不安そうにしてたのに、
もう、先輩の話をそんな風に笑って話せるんだなって。
……なんだろう。
ちょっとだけ、置いてけぼりになったような気がした。
***
オリエンテーションは午前中でひと通り終わった。
体育館での全体説明、そしてクラスごとに校舎内をぐるりと案内される。
中等部校舎、高等部校舎、講堂、図書室、購買、食堂……
慣れるまでに時間がかかりそうな広さだったけど、隣で陸が軽く冗談を飛ばしてくれるおかげで、少しずつ肩の力が抜けていった。
「ふー、やっと終わったね」
「思ったより歩いたな…慣れるまでは迷子になりそう」
「ふふっゆきちゃん方向音痴だもんねー?」
「違う!道を覚えるのがちょっと苦手なだけ!」
はいはい、と笑う陸にムカついて膨れていると余計に笑われた。
昼前には自由解散になった。昼ご飯を食べるために食堂に向かう。
他学年はまだ授業中で広い食堂には1年生だけがまばらに座っていた。
陽の当たる窓側の席を取り、陸と向かい合って座る。
食堂では食券制になっていて、種類も豊富。
ハンバーグと唐揚げでめちゃくちゃ悩み、陸に笑われた。
結果、俺はハンバーグ定食、陸は唐揚げ定食を頼んだ。
「…んま!肉汁すごっ」
ハンバーグは箸を入れた瞬間、肉汁が溢れた。
レストランで食べより美味しいかもしれない…。
感動していると陸から唐揚げを差し出される。
「ゆきちゃん、あーん」
「あー…ん!熱っうま!」
条件反射で食べると唐揚げは生姜の効いていてご飯が進む。
「俺のも、はい。あーん…」
1口サイズに切ったハンバーグを陸に差し出す。
肉汁が垂れるから左手を添えていたら、陸はハンバーグを食べたあと、手のひらに垂れた肉汁まで舐めてきた。
「んっ…バカ、なにすんだ!」
慌てて手を引っこめティッシュで舐められた所を拭く。
「ごめんごめん、勿体なくて…唐揚げあげるから許して?」
陸から2つも唐揚げを貰ったから許してやる。
その後は他愛ない話をしながらご飯を堪能した。
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