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第6話②

***  浜辺はすでに相当な暑さだった。  海水浴場が開くまであと一時間ちょっと。まだ駐車場に車はなく、今日は隣の海の家の人もまだ来ていないようだ。 (これなら急いで来ることもなかったかな)  今日も穏やかな波の音を聞きながら、しおさい亭の裏口のドアを開けた。  むわっと熱い空気が流れてくる。厨房ではすでに火を使って、仕込みをしているのだろう。  しかし厨房に足を踏み入れた僕は、「あれ?」と首を傾げた。  暑いだけじゃない、なんだかちょっと焦げ臭いような……? 「おはよう、ばあちゃん、ねぇ何か焦げて——…………」  声をかけながら厨房の奥を覗き込んで僕は、そのまま固まった。  調理台の向こう側の床。  そこから誰かの足が見えていた。 「…………え」  瞬間、心臓が凍りつく。  僕は悲鳴を上げながら厨房へ駆けこんだ。 「ばあちゃん!?」  厨房の床に、ばあちゃんが横向きに倒れている。目を固く閉じたその顔は、真っ青で汗が滲んでいて……。 「ばあちゃん、ねえ……! ばあちゃんってば!」 「……ぅ……」  ばあちゃんが胸を押さえて呻いた。 「……心臓? もしかして心臓が痛いの?」  呼びかけてみても、まともな返事はない。  汗が背中を流れ落ちる。鼓動が痛いほどに鳴っている。 昔からばあちゃんは心臓が弱かった。最近薬も増えたと聞いていた。もしかして心臓の発作が起きた? どうしよう、どうしたら……? 「そうだ……きゅ、救急車……!」  はっと我に返った僕は、慌ててポケットからスマホを取り出した。震える指で「119」を押す。 「助けてください、ばあちゃんが、ばあちゃんが倒れて……っ、心臓を抑えてて、苦しそうなんです……お願い、早く来て――っ」  僕はスマホに向かって叫びながら、苦しそうに胸を押さえるばあちゃんの手を、必死で握った。

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