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第3話
「不合格ですよね、そうですよね……」
ウラトは肩を落とし、試験官から結果を伝えられた。
「はい、しかしあなたの能力を見込んで教育を受けないかとおっしゃっています。教育を希望いたしますか?」
「教育?ありがたいお話ですが、お金もないですし、家も遠いので通ったりは難しいと思います」
「もちろん住み込みです。三食つきますし、服も生活に必要なものも支給され、掃除や洗濯は城の者がします」
「そんなことまで!?」
思わず立ち上がると試験官は少々引き気味だった。
「はい、」
「それなら喜んで!!」
両手を上げ、喜んでいると試験官は続けた。
「代わりに厳しい教育を受けることになります。まずは一か月試用期間とします。期間中に相互的にまたはどちらかが無理と判断されれればその時点で終わりとなります」
「三食昼寝付き!」
ウラトは食事のことに関して考えるのに夢中で耳には全く届いていなかった。
「昼寝はついてませんが……」
試験官はこれも届いていないとわかりため息をついた。
「承認でよろしいでしょうか?よろしければこちらでサインをいたします」
「全然いい!承認!承認!」
文字を書けないウラトの代わりに試験官が書類に承認のサインをした。そしてウラトの手を取り、拇印を押させた。
早速その日から城に部屋をもらい、住みつくことになった。広い部屋ではなかったが、共有の風呂、トイレが離れにあり、清潔で食堂も決まった時間に行けば食べ放題。
たらふく食べて満足し、部屋に戻るとふと今朝のことを思い出した。
チュラが罠に落ちてきて、なけなしのお金で食事をおごって、城下町まで送り届け、保護してもらって別れた。
急にさみしさを覚え身を起こした。チュラの笑顔が脳裏をよぎり頭を抱えた。
「忘れろ、もう別れたんだ」
窓の外を見ると、城壁が目に入った。たしか説明ではあそこには自由に登れたはずだ。
あたりを探索するとはしごがあり、そこを登って城壁の上に出た。
そこでは月が輝き、見える景色は幻想と見まがうほど美しくで、障壁の上では人が抱えられ、その人もまた月の光をあび綺麗な紫の髪をなびかせ……。
「抱えられ?」
はっとしてみると、今朝見たツクネグモだ。ということは抱えられてる紫の髪は
「チュラ!」
チュラは役場で保護されたはずだ。城に保護されていたのか?
「またお前かよ!」
ツクネグモも気づいたのか、城壁を飛び降りた。
「城の警備はどうなってるんだよ!」
ウラトは城壁から飛び降り、ツクネグモを取り囲むよう不規則網を投げとらえた。
ツクネグモは舌打ちをしてチュラをウラトに投げた。
ウラトは慌ててチュラを受け止め倒れこむと、その隙にツクネグモは網を破って逃げ出していた。
「まて!逃がすな!」
それと同時に城のキーパーの声がおりてきてツクネグモを追った。
「おせーよ」
ウラトはぼやくように言って意識のないチュラをぎゅっと抱きしめた。
「やっぱお前を攫うのは俺だ」
チュラが目を覚ますと、暖かさを感じすがるようにすり寄った。すると背中を押され体が密着する。
抱きしめられたような感覚に安心感があったが、はっとして目を覚まし起き上がる。
「え?え?え?」
あたりをきょろきょろ見て、隣で眠るウラトに気づいた。
「ウラト?」
掛け布団をぎゅっとつかんで、気持ちを隠すように胸元に寄せた。
テーブルを見ると星砂の小瓶が置かれていた。瓶のくぼみにリボンが巻かれ、花飾りが施されている。大切にされているのだとわかり、ほっとしてウラトに目を移すと目が合った。
「わっ」
「なに驚いてるんだよ」
「あの、何でここに?私はどこに?」
チュラは知らない部屋で、ウラトが隣で寝ている。自分がなぜ寝ているのかも分からない。
「また連れ去られたんだろ、それを俺が見つけて、城の警備が甘いから俺が守るって俺の部屋に連れてきたんだよ!」
ウラトは腹が立ったのを思い出し、捨て吐くように言った。
「俺が守る?」
ウラトは目を見開きチュラに振り向く
「違う、それは」
「違うんですか?」
悲しそうに視線を落とすチュラを抱きしめたい衝動にかられたが何とかこらえた。
「違くない。今後は俺にお前を守らせてほしい……」
ウラトはそこまで言うとチュラの顔に顔を寄せた。
「けどお前はリュウキュウへ帰るんだろ」
「帰りませんよ」
チュラはあっけらかんと言う。
「急いで帰らないとって思ってたんだけど、ウラトと別れて、帰る方法を聞いてたら何で帰らない解けないんだろうって思って。家に居るときよりウラトと一緒にいるときのほうが楽しくて、安心できたから、ウラトと一緒にいたいって思ったんです。けどウラトの家がどこかわからなくて、連絡先も知らなくて、お城で働けばここにいられるって言われたからここで働くことにしたんです」
ウラトはそれを聞いて顔を真っ赤にして耳まで熱くなった。
「いや、それは、もう……」
告白。頭に血が上り働かなくなっていた。
「そうですね、もうウラトに会えましたし働く必要はなくなってしまいました。どうしたらいいでしょう?」
チュラは困ったように言って、悩んでいた。
「あ、でも、ウラトの気持ちをまだ聞いてませんでした。ウラトはどう思いますか?送ってもらってる時は途中から目を合わせてくれなくなって、別れ際はどこ見てるのかよくわからなかったですしもしかしたら嫌われてるのかなと思ったのですが」
そんな風に見えていたのか。こんなにストレートに気持ちを伝えてくれるチュラに、そんな情けない行動をとっていたことをどう説明してよいやら言葉が出ず固まっていた。
「ウラト?」
チュラが顔を近づけてくるの心拍数がさらに上がった。もう何も頭に入らない。
チュラは首をかしげウラトを見つめ、そっとキスをした。
するとウラトは倒れた。
「ウラト?大丈夫?もう一回キスれば目さめる?」
そういってチュラがもう一度キスする。それでも動かないウラトにその後も何度かキスをすると、ウラトはぎゅっとチュラを抱きしめた。
「俺も、一緒にいたいよ……会った時からずっと……思ってた」
何とか絞り出せた言葉。チュラはふふふと笑って「よかった」とウラトをぎゅっと抱きしめ返した。
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