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第2話
城下町につくと、役場へ向かった。突然城に行くわけにはいかない。そんなことをすれば門前払いされるか、最悪二度と入れないかもしれない。
リュウキュウに行きたいこと、その方法を聞くとそこは沖縄という場所で誘拐されたとなれば保護して送ることもできるとのことだった。さすが人間がいる国は把握がはやい。ここまで対応してくれるとは思わなかった。いい王が即位されたのだろう。森に住んでいたら王が変わっても関係ないことだった。
それを聞くとチュラは喜んで手続きを進めた。家に帰るまでの食事と過ごせる場所も提供されるらしい。なんとも手厚い。そうなると俺はもうお役御免だろう、さっさと森へ帰ろう。長居すると情がうつる。すでに欲は沸いているけど。
「じゃあ、俺は帰るよ」
「もう帰るんですか?」
チュラは悲しそう、というより不安そうにウラトを見た。
「保護があるから大丈夫だろう」
「そうですよね……」
うつむくチュラが何を考えているのかわからない。
求めているのか、ただの不安なのか、どうしてほしいのか。できることなら、そばに置きたい。もしくはついていきたい。
「あの、やっぱり」
チュラは顔を上げてウラトを見た。
「なに?」
どきどきと高鳴る鼓動のせいか、声がいまいち頭に届かない。
「この星砂を受け取ってください」
「はい?」
星砂という言葉に冷静になり、動悸がおさまった。そして手に星砂の入った小瓶を握らされる。
「ウラトさんは価値をわかってないみたいですけど、それなりの価値が出ると思います。とはいっても宝石ほどではないですが、他にできるお礼がないのでこれだけはお願いします!」
それ以降の会話はいまいち覚えていない。あっけにとられ、気づくと役場の外で立っていた。先ほど別れを告げ、チュラは手を振って役員とどこかへ行ってしまった。
ため息をついた。一時ではあったが幸せな時間だった。それをかみしめ、歯ぎしりを起こす勢いでかみしめた。
度胸も自信も金も物の価値もわからない自分が憎い。
手の中にある星砂の小瓶を見つめ、ため息をついた。この砂にどれほどの価値があるというのか理解ができない。
今日は近くで野宿でもしよう。町を離れると整備の整った城下町といえど危険があるだろう。
久しぶりの城下町だ、見て回ると目新しいものが多い。何より前の暗かった町並みと全く違い、白い基調の町並みは活気づいていた。
屋台の一つで細いリボンを見つけ星砂の瓶のくぼみに結んで花飾りをつけた。少なくともチュラとの思い出の一つだ。そういう意味では価値がある。
暗い街並みなら森に住んでも同じだと移住したけど、この町なら住んでみたいかもしれない。そう思え町の中を進むと掲示板が目に入った。
「求人?」
仕事をする者に城の中に居住地を与えるとのこと。要は住み込みの仕事だ。城の中で働けるとなれば森の中での暮らしとは全く違うものになるだろう。
食事が毎日欠かさずあり、城のものとなれば豪華だろう。給料もよく生活にも困らない。
すぐに城へと駆け込んだ。
引く受付人に掲示板で見た求人のことを話すと書類への記入を促された。そこには見慣れない文字が並んでいる
「あの……」
「何でしょうか?」
「文字書けないんですが……」
「……」
受付人は少し驚いて周りに目をやった。
ほかの受付人も困ったように眉を寄せた。なんとも居心地が悪い。ちょっと考えればわかることだ、城で働くとなれば文字が書けるのは普通だ。
小学もさぼって文字の勉強もまともにしてなった。簡単なことならわかるけどまともに働けるほどの学力はないのは自覚ある。
「私の言ってることはわかりますか?」
ぼーっとしていると突然聞かれ、黙ってしまう。
「わかりませんか?」
「わかります!」
慌てて返事をすると、受付人はうなづき書類を手元に戻した。
「それでしたら口頭で受付いたします。対応の者が来ますので少々お待ちください」
「はい!」
何とかなりそうだ。いや、何とかしないといけない。
と中に案内され入った場所は広い闘技場だった。
「あの、ここは?」
試験官に聞くと、何かか書類に書き込みながら答える。
「文字が書けないようなので、筆記テストは飛ばしました。そのためすべて0点となります。実技テストをこれからしてもらいます。ここで高得点を全て取れれば問題ありません」
強制0点。なんとも悲しい現実だが、受け入れざる負えない。チャンスを与えてもらえてるだけでありがたい。ここでできるだけのことをする必要がある。
「実技テストって何をするんですか?」
「簡単なことです。城を守るキーパーが襲い掛かってきます。それを全てかわしてください。攻撃を受けた場合はしっかり受け身を取ってください。攻撃をする必要はありません」
「それだけ?」
「それだけです」
簡単なことだ。普段の戦いと同じでかわして受け流せばいい。そうやっていつも相手があきらめるまでかわし続けた。
開始の合図と共に一人目が目の前に突っ込んでくる。今まで相手にしてきた者と速さが格段に違う。
だがかわせないほどではない、すんでの所でかわし二人目が後ろから羽交い絞めにしようとするが、軽くかわして避けた。
普段攻撃も交えている分少しやりずらさがあったが、何とかなる。
しかし何度か攻撃をよけ続けていると、体力も消耗する。ここまで継続的によけ続けることは普段しない。息が上がり頭がぼっとしてくる。いつまで続くのかわからない状況に試験官に目をやると、その隙をついて新手のキーパーのこぶしが目の前にある。かわせない、そう思う前に手が出て、こぶしの力を右に流してキーパーを投げ飛ばした。
「やば」
思わず手が出てしまった。攻撃してはいけない。そう言われていたのに。
試験官を見ると「続けて」と声が聞こえ影が視界に入り振り返ると背後にキーパーがいた。
手を出していいならと続けて力を受け流し次々とキーパーを投げ飛ばした。
やはり避けるだけよりこの方が楽だ。
何人か投げ飛ばすとそこで「止め」と声がかかった。
試験官は走り寄ってきた。いつもよりうまくかわせた、これは褒められるか?と期待したが、
「攻撃してはいけないといったでしょう。なぜ手を出したんですか」
明らかに憤慨した声で言われ、気まずくなる。
「え、止められなかったから、いいのかと思って……」
「止めなかったのはまだ避けられるか見るためです。一度のミスは見逃されますが継続的なものは低評価をせざる負えません」
それを聞いて言葉が出なかった。ちょっと考えればわかることだ。やってはいけないといわれた事なのに続けてしまった
「あの、すんません」
肩を落とし、頭を下げた。
「すみませんでしょう」
試験官は書類にメモを残す。
「すみません……」
常識がなさ過ぎて泣けてきた。今まで自由に生きてきたつけか。
試験が終わり、すべてをあきらめ呆然としていた。突然城で仕事をしようなんてさすがに無茶があった。
「ウラト様お待たせ致しました」
「はい!」
突然呼ばれ勢い良く立ち上がった。
「追加試験でございます」
「追加ですか?」
試験官は緊張気味に続けた。言葉も妙に丁寧だ。
「はい、あなた様の試験の内容を見て興味を持った方がおります。その方がぜひ追加で試したいと仰っていますが受けられますか?」
「もちろん!」
試験官の緊張に引きずられ自分まで緊張してきてしまう。しかし飲まれている場合じゃない。まだチャンスがあるなら挑戦したい。
改めて試験場へ戻ると、青い髪の蜘蛛がいた。
「彼と戦ってみてください」
「みてください?」
試験官は顔を寄せ小声で話す
「到底かなう相手ではありません。受け身はしっかりお願いします。基本的によけて、攻撃できそうなら攻撃もいいです。勝つ必要はありません。ケガだけには注意してください。受け身はしっかりお願いします」
念を押して試験官は離れていった。
いったい何者なのかわからないが、手を出していいなら何とかなる。
「俺は海だ。ある人の指示でお前と戦うよう指示を受けた。俺は手加減はするが、お前は手加減するな」
「は?」
明らかなあおり文句。胸のあたりで煮えくりかえるものがあり体が熱くなった。
「それでは」
試験官の声が遠くから聞こえた
「開始」
その声と同時に海の姿が消えた。
「え?」
「こっちだ」
と背中を押される。
数メートル体が宙を浮き地面へと落ちた。
体が打ち付けられすぐに立ち上がった。
「何がどうなって」
早いのか何なのかわからない。
「少し早いか、もう少しスピードを落としたほうがよさそうだな」
気づくと腕をつかまれ体を宙に投げ飛ばされた。
「うわぁぁぁ!」
体が宙を舞う。思考が追い付かない。何が起きているのか。普段は言われる側だった。手首が柔らかいことで常人ができない動きができて、相手を混乱させた。相手はみんなこんな感覚だったのか。
怖い。その感情が強く沸き上がり震えた。
体がこわばり受け身が取れず、地面にたたきつけられそうになったところで海に受け止められ、そっと降ろされた。
「あ、あの……」
震えて声が出ない勝てない。全身が震えて立つこともできなかった。
「大丈夫か?」
海がのぞき込むと試験官が駆け寄ってきた。
「少し休んで仕切り直しましょう」
それを聞くと海はうなづき離れていった。
「立てますか?」
「はひ」
情けない声とともに立ち上がった。足を叩くとどうにか力が入る。
「先ほども言いましたが、あなたが勝てる相手ではありません。勝つ必要はありません。彼が納得するまで戦ってください、それだけでいいんです」
「は、はい」
戦意喪失している、勝ち目がないのも誰の目から見ても明らかだ。城の蜘蛛というのはこんなに強いものなのか。だとしたら先ほど戦った蜘蛛は何だったのか。新人か、下っ端か。自分はそのレベルなのか。
ここまでの打ちのめされる感覚は初めて味わう。
海はウラトを見つめ、視界に白い影が降り立った。
「すまない、ちょっとあおりすぎたみたいだ」
海が言うと足元の砂を蹴った。
「そうみたいだな、あんなにおびえてかわいそうに」
白い衣と髪が揺れ、ウラトを見た。
「けど、力の差がありすぎて俺が手を出すわけにはいかないからな。投げ飛ばされた奴が体制を一気に崩されたといったいたから早いのかと思ったけど、それとも違いそうだな」
「そうだな。俺の動きについていけてないし。それなら他のやつでもいいんじゃないか?」
「いや、動体視力がないとどうしてそうなったのかわからないだろう。もう少し続けてくれ」
「わかった。けど、蔵之介から離れないでくれるか?俺は蔵之介のキーパーだ。蔵之介を守ってくれると約束したからここに立ってるんだ」
「大丈夫だ、ビアンカが来たから。俺が興味を持ったから気になったらしい」
「は?」
先ほどから客席に座っていた蔵之介の横に、今横にいる白い髪と白い衣の者とうり二つの姿がそこにあった。
試験官は周りの状況を確認して、ウラトに視線を戻した。
「絶対客席は見ないようにお願いします!」
ウラトは何かと客席に目をやると4人ほど人影が見えた。白い衣の一人が妙に存在感があるが誰だかはわからない。
「見てはいけないと言っているでしょう!!」
と試験官が両手を振り衣の袖で視界を遮った。
「誰なんだよ」
「ビアンカ王と奥さまです!」
「は?なんでそんな人がここに?いや、城だからいてもおかしくはないのか。でも見に来るっていったい何が?」
「それがわかれば私も困っていません!」
試験官は困惑して涙目だった。今回の王は自由奔放なのか、なんなのか。
混乱に混乱を呼びさらに混乱するかと思いきや、一周回って冷静だった。
海を見ると、いつの間にか隣にも白い衣の男がいた。
客席にいた王と似ているようだが、兄弟か親戚か。少なくとも王族の一人だろう。しかし今はそんなことどうでもいい。
冷静になった、体の震えも止まった。まだ戦える。
勝たなくいい、死ぬこともない。その状況で強い者と戦えるのは今後に役立つ。
「続きをしよう」
試験官にはなれるよう胸を押す。
「へ、は、はい」
相返事をして試験官は海の方へと走り少し会話をして頭を下げて離れた。白い衣の男も客席へと戻った。
「そっちの好きなタイミングで来ていい」
海が言うと、ウラトはうなづき走り出した。
「あ、走ってるのが見える」
客席に座る蔵之介が嬉しそうに言った。
「本気で戦ってるとみんな早くて何してるのかよく見えないから」
そして隣のビアンカの腕をつかんで闘技場を見つめた。
海の元へ走り殴りかかると海は平然と避けた。何度も殴り、回し蹴りを繰り出すがすべて避けられる。先ほどの動きから追いつけるわけがないとわかっている。だとしたら。
回し蹴りと同時に不規則網を放つと海は一歩跳ね引いた、それと同時に二歩踏み込みこぶしを打ち込む。海はそれを腕で受け止めようとしたがこぶしは開き腕をつかまれ一気に体が引くりかえった。
海はとっさに片手をつき、つかまれた腕で相手の腕をつかみ、勢いを借りてウラトの体をひっくり返した。海は正位置に体を戻し、ウラトはひっくり返ったまま地面に倒れこんだ。
「あれ?」
ひっくり返したはず。それなのに俺がひっくり返っている。いったい何が起きたのか。
混乱して倒れたままでいると、海が掌をもって動かしてきた。
「手首柔らかいな。これでみんなやられたのか」
「あはは、今はやられましたけど……」
勝てない、というのがこんなに悔しいものなのか。涙があふれた。
「海、分かったのか?」
白い衣の男が海の横に立ち聞くと海は説明をしていた。
何を言っているのか頭に入ってこない。ただ悔しい。今までこれで全部片づけてきたのに一度で見極められ体を返された。
こんなことは初めてだ。
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