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第1話
朔にはどこにも行く宛てがなく、頼れる人もいない。物心がついた時には、もう施設で暮らしていた。そのため、天涯孤独だ。
高校卒業後、住み込みで旅館で働いていたが、要領が悪くミスばかりしてしまい、クビを言い渡されてしまった。
途方に暮れるしかなかった。
人間関係が上手く構築できず、仲の良かった人はいない。田舎だから漫画喫茶など泊まれる所もなかった。寮に居られる期日は今日まで――――
キャリーケースに服と貴重品だけを入れ、とりあえず外へ出てきた。
周りには何もなく、街灯もまばらで闇が濃かった。このまま吸い込まれてしまうのでは、と恐怖に悪寒がする。
ふと、目に入った公園へ入るとベンチがあった。座り、これからのことを考えようと思った矢先、大雨が降り出した。
(ついてなさすぎる)
あっという間にびしょ濡れになってしまった。
ベタベタと肌に纏わりつく衣類に不快感がすると共に、雨が体温を徐々に奪っていく。
寒さに身を縮こめていると、孤独感が押し寄せてきた。
(このまま僕、どうなっちゃうんだろう。孤独死……?)
そんな事を思っていると怖くなってしまう。ガタガタ震える身体を自分で抱きしめる。
そういえば、食事もしていなかった。空腹感も湧き始め、どんどん惨めな気持ちになっていく。
意識もボーッとしてきた。
(考えなきゃ……いけないのに……)
薄らぐ思考能力。ここへ来てどのくらい経ったのか、時間の感覚がない。人の気配にも気づけなかった。
いつの間にか傘を差した若い男性が目の前にいた。
「何してるの?」
急に声をかけられ驚愕した。口をぱくぱくさせながら何か言わなければと思うけれど、言葉が出てこない。その様子を見て男性は「ふふっ……」と微笑んだ。
「行く所ないの?」
答えようと口を開こうとしたが、震えていて上手く言葉を紡げない。歯がカチカチ鳴るだけだ。
男性は傘を朔の頭上に掲げながら、声をかけてくれている。
「良かったらウチに来る?」
朔が男性を見上げると、ニッコリとした表情を浮かべていた。
男性の優しい表情を見て、朔は涙が溢れた。次から次へと涙が出てきて止まらなかった。
自分の存在を気にとめる人がいるなんて信じられなかった。ずっと孤独だった。けれど、この人は朔を真っ直ぐと見てくれている。優しい眼差しに温もりを感じ、目が離せなかった。
気づけば、涙は止まっていた。
「びしょ濡れだね。一緒に行こう?」
男性が手を差し出した。
初対面なのに、この男性を信じても良いのか、今の朔は疑問に思うこともなかった。目の前の優しさに縋り付きたくなった。自分の置かれている状況から逃げ出したかった。
朔は男性の手を取り、立ち上がる。すると、男性が名前を教えてくれた。
「私は冬真。よろしくね」
「ぼ、僕は……朔、といいます…………」
絞り出すように自分も名前を口にする。
冬真は朔の手を握り直し歩き始めた。それにつられるように朔も続いた。
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