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第2話
冬真に連れてこられたのは、白い外壁に赤い三角屋根の二階建ての一軒家だった。
庭はあるようだったが、暗くて何も見えない。周りは木々に囲まれていて、隣家はなさそうだ。
玄関に入ると中はシーンと静まり返っており、他の人の気配は感じられない。けれど、出かけているだけかもしれない。偶々留守にしてるとか……
「家族はいるんですか?」
「私一人だよ」
目を伏せて冬真は答えた。
その表情に何か理由があるのだろうか。そう思うと聞かない方が良かったのかもしれない。
「今、タオル持ってくるから待ってて」
気まずい空気になるかと思ったが、冬真は家の中へと姿を消し、一人取り残された。初めて入った空間で一人になり心細く感じる。冬真が傍にいた時は大丈夫だったのに、離れただけで怖くなった。
ソワソワ落ち着かなくなってきた頃、冬真はタオルを手に戻ってきた。自然と楽しそうに朔の頭を拭ってくれる。優しい手つきとタオルのふわふわな感触が気持ち良くて、ボーッとされるがままになってしまう。
冬真の存在に安堵している自分が不思議だった。先程一人の時に感じた不安はない。
「風邪ひくといけないから、シャワー浴びた方がいいね」
確かに。濡れた服が肌に纏わりついて気持ち悪い。
「借りられるのなら、お借りしたいです」
「こっちだよ」
冬真に手を引かれて連れてこられたのは洗面室だった。
「服はそこのカゴに入れておいてね。シャンプーとか適当に使っていいから」
テキパキと指示をすると、その場を離れていった。朔はまた心細く思いながらも、肌に張りついた服を苦労して脱いでいく。
芯から冷えている身体にシャワーの温かさは身に染みた。心までじんわりと温かくなってホッとすると共に涙が溢れてきた。
思い返してみると、今まで人に優しくされたことがなかった。冬真が初めてかもしれない。
自分の行動は何故か人をイラつかせてしまうらしい。けれど、冬真にそんな素振りはない。
止まらない涙にしばらく、めそめそと泣いた。
シャワーを浴び終え扉を開けると、パジャマが綺麗に畳んで置かれていた。手に取ると朔の身体には大きめなパジャマだった。袖を通してみるけど、やはりぶかぶかだ。
下を穿こうとして下着がないことに気づく。
(キャリーケースの中にあったよな?)
恥ずかしさがあったがとりあえず、ノーパンのままパジャマを着て余った裾を捲った。
玄関に置いたままのキャリーケースを見に行くと、そこにはもうなかった。冬真に聞くしかない。
明かりがある方へ廊下を進んだ先にリビングが続いていた。ソファーで冬真は寛ぎ、テレビを観ている。
朔に気づくと、視線を合わせ柔らかな笑みを浮かべた。
「温まった?」
「は、はい。……ありがとうございました」
「良かった。パジャマ、大きいのしかなくてごめんね」
「いえ……。あの、キャリーケースって……?」
「あぁ、二階に運んでおいたよ」
「下着がその中に入ってるので、取りに行ってきてもいいですか?」
「後でもいいんじゃないかな? 先に髪の毛を乾かそう。濡れたままでは風邪をひいてしまうよ」
「で、でも………」
「乾かしてあげるから、こっちにおいで」
下着を早く穿きたかった朔だが、手招きで呼ばれ諦めた。冬真の足元に背を向けちょこん、と膝を抱えて座る。下着を穿いていないから下半身がスースーして落ち着かない。
ドライヤーで朔の髪の毛を乾かし始めた冬真の指が時折、首筋や耳を掠めた。その途端にゾクッと妙な感覚が走った。慣れない感覚に身体が勝手に動いてしまう。
「いい子だからじっとしててね」
しっかり座っているように意識すると余計ゾクゾクして動きたくなる。
(なんだろ?)
ただ、じっとしていればいいだけなのにそれが出来ず、髪の毛を乾かし終わるまで時間が長く感じた。
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