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第3話
ぐぅ、と朔のお腹が豪快に鳴った。テレビがついていたが、部屋中に音が響いた気がして恥ずかしくなる。耳が熱い。
(……そういえば何も食べてないんだった)
「お腹空いてる?」
冬真は笑うこともなく聞いてきた。
「あっ、はい……。すみません」
「ちょっと待ってて」
キッチンでカチャカチャ音がしたかと思うと、白い皿に盛った物を持ってきた。
「ちょうどスープがあるからどうぞ。口に合えばいいんだけど」
そう言いながらそっと、テーブルに皿を置いた。
野菜がたっぷり入ったスープだった。白い湯気が立ち上り、コンソメの匂いが食欲をそそる。
「ありがとうございます……」
椅子に座ると冬真も向かい側の椅子に座った。
スプーンを手に取りスープを口に運んだ。野菜が柔らかく煮込まれていて食べやすい。
「美味しい……です」
心がほっこりするような優しい味がする。朔には馴染みのない味だった。
(家庭料理ってこんな感じなのかな?)
咀嚼して飲み込むと、体の内側から温かさが広がり、空腹を満たしていく。
じわり、と目尻が涙で濡れた。込み上げてくる感情が苦しくて、呼吸が乱れる。
顔を見られまいとして思わず俯いてしまった。
冬真と出会ってから泣いてばかりだ。泣くことなんて今まで殆どなかったのに……
(涙腺壊れた?)
冬真の落ち着いた、低くて柔らかい声を聞いていると安心感なのかわからないが、余計に涙が出る気がする。
冬真は朔の様子を微笑みながら、じっと頬杖をついて見ている。
観察されてるみたいで身体が硬直し、心臓が忙しなく鼓動する。
(会話! 会話しなきゃ……)
「えーっと、このスープ冬真さんが作ったんですか?」
「そうだよ。一人だと自分で作るしかなくて…ね。コンビニまでは車で三十分、スーパーまでは一時間かかるし遠いんだ」
「料理できるなんて凄いですね。家庭料理って感じで素敵です。大変じゃないですか?」
「もう慣れたかな。おかわりあるから好きなだけ食べてね」
スープは一回おかわりし、二杯食べてお腹が満たされた。
皿を片付けようと朔は立ち上がったが、
「私がやるから大丈夫だよ」
皿を冬真に取り上げられてしまった。
「すみません……」
「ソファーに座ってテレビ観てていいよ」
そう言い残すと、キッチンに行ってしまった。
ソファーに座ると朔は、満腹になると気にならなかったことが気になり始める。
そう、未だに下着は穿いていない。ノーパンのままだった。
(冬真さん、後って言ってたけど忘れてるのかな……)
テレビを観ている振りをして、チラッとキッチンにいる冬真を見るが、こちらを気にしている素振りも覚えている素振りもない。
(なんて言えばいいかな?)
今更言うのも気まずい。
ノーパンでいると自分自身のものがパジャマに擦れてくすぐったい。
テレビではニュースが流れていたが、全く頭に入ってこない。
モゾモゾと身体の体勢を変えて堪えようとするけど、動くたびに擦れてしまう。
頭の中で『どうしよう』とパニックになりながらも、平静を装って耐えるしかなかった。
そこへ足音が近づいてきた。冬真だ。
朔との間を開けて隣に腰を下ろした。
「スープ気に入ってもらえて良かった」
「凄く美味しかったです。身体がホッカホカになりました。ありがとうございます」
「人に食べてもらえるのって嬉しいものなんだね」
ニッコリ、と朔に微笑みかけた。
冬真の視線に戸惑う。
耐えようとしているが、自分自身のものが兆し始めているのを知られる訳にはいかない。
バレやしないかヒヤヒヤする。
「もう夜も遅いし、今日はとりあえず寝よっか。部屋に案内するよ」
どうやらバレていないようだ。
(良かった)
冬真の後をついて二階に上がる。
部屋は四つあり、一番奥の部屋に案内された。
「何もないけど、ここ使っていいから」
ダブルベッドが一台あるだけだった。
朔のキャリーケースは部屋の隅に置かれている。
「一番手前の部屋が私の所だから、何かあったら来てね。じゃあ、おやすみ」
冬真は朔の頭を撫でると自分の部屋に消えていった。
なんとかバレずに済んだ。
キャリーケースから下着を取り出し穿いた。
(やっと穿けた)
兆していたものも治まり、やっと落ち着いたのだった。
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