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第3話 双子
「レオ、また考え事?」
体調が悪くベッドで横になっていたミカエルが上半身を起き上がらせ、ベッドのヘリに座る僕を見た。
「ううん。ちょっとぼーっとしてただけ。それよりミカ、体調はどう?」
「大丈夫になってきたよ」
そうミカは言ったけれど、すぐに咳が出て体をさわれば少し熱い。
今回の風邪も長引いてるし、多分もうすぐヒートになるかもしれない。
「咳も出てるし微熱もある。まだゆっくりしていないと」
咳に良いと言われるお茶をミカのために淹れ、フーフーと息を吹きかけ少し冷ましてから、
「熱いから気をつけて」
ソーサーごと手渡す。
「父様と母様には、僕がまだ咳が出て微熱があることは秘密にしてね」
そういいながら、またコンコンと咳を二回する。
「どうして?」
「だって今日はサイモンが来る日でしょ?もし僕が咳をしてて、しかももうすぐヒートになるかもしれないって父様達に知られたら、アルファのサイモンと会わないように、また部屋から出してもらえなくなってしまう」
今日は父様の親友のオリバー伯爵の長男で、僕達の憧れの人、サイモンが邸宅を訪ねて来てくれる。
サイモンは誰に対しても優しくて、何でもよく知っている博識で、乗馬の名手でかっこいい。
僕はサイモンに憧れ以上の気持ちがあるけれど、それは誰にも言えない。
だってサイモンはミカの婚約者。
僕とミカは生まれる前から将来が決まっている。
長男の僕は次期当主、次男のミカはカトラレル家とオリバー家の絆がより強くなる為にと、僕達が18歳になったら結婚することが決まっている。
だからどんなに僕がサイモンのことが好きでも、決して実ることのない恋。
「でもサイモンはこの夏の間、ずっと僕達の家で泊まってくれるんだよ。だから今日会えなくても、また会えるじゃない」
「嫌だ、僕は今日会いたい。僕がサイモンに会える日をどんなに楽しみにしていたか、レオは知ってるでしょ?」
「それは……」
ミカがサイモンに会うことを楽しみにしてたのは知っている。
でもミカが体調悪いのを隠していても、父様達にはすぐにバレてしまうし、無理すると余計に体調が悪化してしまう。
「今無理したら、余計に体調が悪くなってしまうよ」
「そんなの僕が一番知ってるよ!それでも僕はサイモンに会いたいの!」
イヤイヤとミカは頭をブンブン振る。
体が弱いミカはみんなから大切に育てられ、どんなわがままだって叶えてもらっていた。
だからミカがしたいといえば叶うまで、絶対に折れない。
もうこうなってしまったら、誰もミカを止められない。
それにミカも好きで体調が悪くなったわけじゃないし、今日サイモンと会えるのをとても楽しみにしていたことを、僕は一番知っている。
「わかったよ、父様達には言わない。その代わり寝る前の薬はちゃんと飲んでね」
「あの薬、苦いから嫌いなんだ」
「でもあの薬が一番効くから。ね、お願い」
僕がミカの頭を撫でると、
「レオの頼みだから飲んであげる」
頬を膨らませ口を尖らせ、拗ねながらミカが言った。
僕は知っている。
ミカは言い方は悪いけど、決して悪い子じゃない。不器用なだけなんだ。
「ミカ、大好きだよ」
「僕だって……大好きだよ」
耳の後までミカは赤くした。
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