6 / 82

第6話 初恋の人 ③

 今日は晴天。  馬を走らせると風が頬を撫で、土を蹴る(ひずめ)の音が心地いい。 「サイモン、気持ちいいね」 「そうだね」  サイモンの髪が、馬の動きに合わせて上下に靡く。  本当に綺麗。  サイモンの隣で走れる幸せを噛み締めた。  丘の上からは街の様子がよく見えた。 「秋に行われる収穫祭には、レオも一緒に行こう」 「本当に!?」  収穫祭前後は季節の変わり目で、ミカの体調が崩れやすい。  だから今まで一度も行ったことがなかったけれど、ずっと収穫祭に行きたかった。 「でも今年はミカと結婚して初めての収穫祭だよ。そんな時に僕も一緒に行ってもいいの?」 「もちろん。ミカだってレオと一緒の方が嬉しいと思うよ」  サイモンはそう言ってくれるけれど、本当にそうだろうか?  ミカはサイモンのことが幼い頃から大好きだった。  僕がどんなにサイモンのことが大好きになっても、決して一緒にいることはできない……。  今年の収穫祭はやっと大好きなサイモンと結婚でき、ミカはきっと二人きりがいいに違いない。  でも僕も一緒に行きたい。  そう思うのは僕のわがままだとわかってる。  だから僕は……、 「やっぱり行かない」  そう決めた。  ミカとサイモンの幸せを願うんだ。 「結婚してサイモンと新しい土地で暮らすことになるミカにとって、ここでの感謝祭は最初で最後の感謝祭で大切なお祭り。だからサイモンとミカ2人だけでいくべきだよ。2人だけの新しい思い出を作ってよ」  僕は城主になる。  僕の気持ちだけで動ける時は、終わったんだ。 「そう……だね」  切そうにサイモンが微笑んだのは気のせいだろうか?  昼食までに邸宅に帰ったけど、父様達は僕達が乗馬をしに行ったを知っていた。  サイモンが庇ってくれたから怒られずにすんだけれど、のけ者にされたミカは怒っていて宥めるのに苦労した。  きっとミカは体が強かったら、僕よりもっとサイモンと仲良しで、2人だけで出かけていただろう。  そんな時、僕1人置いて行かれていたら、きっと僕もミカと同じようにかなしかったと思う。  サイモンはミカの大好きな人で婚約者。  もう僕はサイモンと一緒にでかけてはいけない。  そう心に決めた。  それから僕はできるだけサイモンとミカが2人で過ごせるようにしたし、もしサイモンなにかする時も必ずミカと一緒にした。  僕はカトラレル家城主になる。  ミカはオリバー家城主夫人になる。  僕達は来月18歳になる。  ミカはサイモンと結婚。  その時、僕の長年の初恋も終わるんだ……。

ともだちにシェアしよう!