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第12話 僕はミカエル ②

「それでいいの?」 「どういうこと?」 「レオがいなくなったばかりだ。気持ちの整理がついてからこの先どうするか、決めてもいいんじゃないか?」 「……どうしてそんなこと言うの?」 「え?」 「いつだったらいいの?気持ちの整理がついてからっていつ?喪が明けてから?サイモン、レオがこの世からいなくなった僕のこの気持ち、いつ整理がつくの?受け入れられるの?そんなの無理だよ。レオがいなくなったこと受け入れるなんて、僕には無理だ!」  大切な(・・・)がいなくなって、僕の心はぽっかり穴があいてしまった。  サイモンが悪いわけじゃないのに、八つ当たりのように怒鳴ってしまった。  でも本当に受け入れられない。  頭では受け入れないといけないと思っていても、心の中では受け入れたくない。  だってもう会えないなんて、そんなのあんまりだ。  あの笑顔に会えないなんて、考えられない。  本当はサイモンと結婚するのはミカで僕じゃなかったし、本当はこんな結婚、僕だっておかしいと思ってる。   今、僕は時期城主ではなくなってしまうけれど、みんなの生活を守れるのは僕だけだ。  サイモンが大切にしたいのは、ミカであって僕じゃない。  サイモンの目に映っている愛おしい人は、僕じゃない。  本当のミカエル(最愛の弟)だ。 「僕はサイモンと結婚したい。レオもそれを望んでいるはずだよ。サイモンはそう思わないの?」  サイモンごめんね。  僕はサイモンの最愛の人でも、本当の婚約者でもない。  でも僕には守るべき人達がいる。  その事を口実にしてまでも、サイモンと一緒にいたい自分もいる。  ここで結婚の話がなくなったら、もう僕とサイモンの繋がりはなくなってしまう。  僕は愛する人を、また1人失ってしまう……。 「もしかしてオリバー家とカトラレル家の約束のこと聞いたのか?」  不意に聞かれてドキリとする。 「なにそれ?知らないよ」  僕は嘘をついた。  サイモンは僕の手を取る。 「聞いてないんだね。でももし知っていたなら、俺と結婚しなくても約束は守ると誓う。家のために自分を偽ってまで、結婚をする必要はないんだよ」 「父様達がどんな約束を交わしていたのか知らないけれど、僕はサイモンと一緒にいたい。サイモンのことが好きなんだ。でも今回の流行病で続いた高熱のせいで、僕の体が子供が授かりにくくなってしまったのを心配しているんだったら、僕の他に新しい奥さんがいても構わない。もう僕を1人にしないで」  そう言い終わらないうちに、また僕はサイモンの大きな胸の中で抱きしめられていた。 「俺が君以外の人をめとるなんて、そんなこと考えないでくれ!俺には君しかいない。いないんだ……」  サイモンの顔は見えないが、切なそうに声が震えている。 「今、ヤケになって俺との結婚を押し進めようとしていない?自分に嘘をついていない?ミカエルは、本当にこれでいいの?」  こくりと僕は頷く。 「本当に俺と結婚してくれるの?」  またこくりと頷く。 「ありがとう。一生大切にする。君が背負った全部、俺が背負っていくよ。君がそう生きると決めたのなら、俺は君と共に生きるよ」  サイモンは僕から体を離し、僕の目の前に立つと跪き、 「ミカエル・カトラレル。俺と結婚してください」  見上げる。 「はい」  そう答えるとサイモンは幸せそうに微笑み、僕の手の甲にキスをした。

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