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第23話 文通 ①

「そうか……ミカエルは流行病で死んでしまったのか……」  気のせいだろうか?ルーカス様は握り拳に力を入れ、目にはうっすら涙を浮かべられている。 「レオナルド。お前とミカエルとは一度会ったことがある」  そう言われて一生懸命記憶を遡るが、僕の記憶ではルーカス様とで会ったことはない。 「と言っても、レオナルドとは会ったのは一瞬。お前達が社交界デビューした時に、俺はたまたまテラスにいたミカエルと出会い、話をしているところに、お前がミカエルを連れ戻しに来た時だからな」  あれは確か15歳の頃、父様と母様に連れられて社交界デビューをした時、ミカエルが突然いなくなって必死になって探してミカエルを見つけた時に一緒にいた男の子が、ルーカス様だったんだ。 「あの時、ミカエルと色々話をして気があって、意気投合して、それから文通をするようになったんだ」  ルーカス様は遠い目をされた。  ミカが誰かと文通していたのは知っていたけど、相手がまさかルーカス様だったなんて。 「ミカエルはいつもは強がってわがまま放題だが、実は寂しがり屋で家族のことが大好きなやつだったな」  ミカはわがまま放題で周りに呆れられてたけど、本当はみんなと仲良くしたいのに、どう接せればいいのかわからないだけの不器用さんだった。  それに体が弱くて、父様や母様に心配ばかりかけていたのを申し訳なく思っていた。  言葉には出さなかったけれど、僕にも色々我慢させていたことに負い目を感じているという気がしていた。 「ルーカス様は本当のミカエルのことを、知っててくださったのですね」  僕の他に本当の優しいミカのことを知ってくれている人がいたことが、嬉しい。 「ミカエルだけ、俺を皇帝の第二王子として見ず、1人の人として見てくれた俺の最愛の人だ」 「ルーカス様の最愛の人?」 「ああ、俺は16歳になったら、ミカエルにプロポーズしようと思っていた。だが俺がプロポーズする前に、突然『結婚することになった』と手紙が届いて、それ以降俺が手紙をいくら出しても返事は返ってこなかった。最後にひとめ、ひとめでいいからミカエルに会いたかった……」  テラスの手すりをつかんだルーカス様の手が、微かに震えていた。  ルーカス様はさよならも言えず、もう二度とミカに会えない。  最愛の人に二度と会えない悲しみは、痛いほどよくわかる。 「ミカエルと会えたのは、初めて会ったパーティーの時だけだった。俺がもっと自由に動ける立場だったなら、体の弱いミカエルに俺から会いにいけた。もっと色々なミカエルを知って、いろんな話がしたかった……」  高貴な立場ゆえ自由にミカに会えなかった悔しい気持ち。  愛しい人との時間が、もうなくなってしまった悲しみ。  痛いほどわかった。 「ルーカス様。僕に何かできることはありませんか?」  ルーカス様の力になりたかった。 「ミカエルの話をたくさん聞きたい。ミカエルの一番近くにいたお前から、聞きたいんだ」  僕もルーカス様に色々知っていただきたい。 「それでは、僕と文通をしていただけませんか?」 「文通か。それはいい考えだな」  悲しそうだったルーカス様の表情が少し綻ぶ。 「手紙にたくさんミカエルのことを書きます。小さい時の泣き虫だった頃のミカエルの話も書きます」 「あの強気なミカエルが、泣き虫だったのか?」 「それに幼い頃、ミカエルは僕と一緒じゃないと寝られなかったり」 「その頃から、寂しがり屋だな」 「そうなんです」  幼い頃のミカを想像されたようで、ルーカス様が微笑まれた。  よかった。  僕もミカのことを話せることが嬉しかった。 「たくさん書きますね。たくさん」 「ああ、楽しみにしている」  ルーカス様が約束と小指を出されたので、僕も約束とその小指に自分の小指を絡ませ指切りをする。  秘密を共有したようで2人して微笑んだ。

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