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第24話 文通 ②
「ミカエル」
テラスのドアが開き、サイモンが来た。
「ルーカス様、お話中に申し訳ございません」
サイモンがルーカス様に頭を下げると、
「かまわない」
と言いながら、僕と絡ませた指を解いた。
「サイモン、皇帝陛下とのお話は終わったの?」
僕が聞くと、
「ああ、終わった」
いつものサイモンではないような、ぶっきらぼうな話し方。
「何かあったの?」
「いや、何もない」
そう言いながらも、さっきまで指切りをしていた僕の手をチラリと見る。
やっぱりいつもの穏やかなサイモンとは違う。
「そう心配するな。俺はお前の大切な人がハイエナのような貴族共に襲われていたのを、助けただけだ。な、ミカエル」
「はい」
ミカのことを話していたとは言えない。
「ミカエルを助けていただき、ありがとうございます」
サイモンは頭を下げる。
だけど、なんだか声に棘があるような気もする。
「何かいいたげだな。気にせず言ってみろ」
「いえ、何もございません」
「その顔でよく言う。俺の目は節穴だと言いたいのか?」
「……。ルーカス様とミカエルが何か約束事をしているように見えましたので、どんな約束をされていたのか、気になっただけです」
「なんだ、そんなことか。ミカエル、話してもいいか?」
ルーカス様とミカのことで文通するなんて、サイモンに言えない。
でもルーカス様に、言ってもいいかと聞かれて、ダメとも言えない。
どうしよう。
僕が返事に困っていると、サイモンはじっと僕の答えを待っている。
もうこうなったら、ルーカス様に任せるしかない。
「はい」
返答を委ねた。
「実は俺には同年代の親しい友達がいなくてな。それで俺と歳が2歳しか変わらないミカエルに、文通をしないかと声をかけたんだ」
顔色一つ変えず、ルーカス様は話された。
文通をする動機は違うけど、もしこれでサイモンが文通を許してくれるなら、堂々とルーカス様とやり取りができる。
「そうだったんですね。そうとは知らず不躾な質問をしてしまい、申し訳ございません」
「気にするな。ではミカエル、お前からの手紙を楽しみにしているぞ」
そういうと、ルーカス様は大広間に帰って行った。
僕の位置からは、ルーカス様を見送っているサイモンの後姿しか見えない。
僕が勝手なことをして、サイモンは怒っているんじゃないだろうか?
「勝手な行動をして、心配をかけて、ごめんなさい……」
僕がそう言うと、サイモンはくるりと振り返ると、僕をぎゅっと抱きしめた。
「本当に、本当に心配したんだぞ。広間にミカエルの姿がなかった時、誰かに連れて行かれたんじゃないか?気分が悪くなって倒れてしまったんじゃないか?必死に探したよ。本当にミカエルが無事でよかった」
僕の存在を確かめるように、サイモンはより僕を強く抱きしめる。
「俺が一緒にいなかったばかりに、ミカエルを危ない目にあわせてしまったなんて」
「ううん。僕がサイモンとの約束の場所を動いてしまったから、だめなんだ。それにルーカス様に助けてもらって、僕は怖い思いなんてしてないよ」
ルーカス様の名前を出すと、サイモンが僕をより強く抱きしめる。
「痛いよサイモン」
「……」
サイモンは無言のまま、僕の体から自分の身体を離し、僕と目をじっと見る。
「ルーカス様と約束していたのは、本当に文通のことだけ?」
「うん。そうだよ」
内容について言えないけれど、約束したのは文通をすること。
「本当に?ミカエルは指切りをするほど、ルーカス様と親しい間柄なのか?」
確かに指切りをするなんて、親しい人同士でしかしないこと。
「今日お話するまで、ルーカス様と話したことはなかったよ」
「本当か?」
「本当」
「……。疑うようなことを言って、すまない」
もう一度サイモンは僕をぎゅっと抱きしめた。
もう僕を離さないというように。
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