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第26話 デート ①
「今日は街に行くよ」
書斎でサイモンと執事のアボットさんと書き仕事をしている時に、サイモンが言った。
「お仕事?」
「いや、今日はデートだ」
「でぇと?」
初めて聞く言葉に、僕は首を傾げる。
サイモン曰く、今、帝都で恋人同士や夫婦、愛する人と出かける『デート』というものが流行っているそうだ。
「流行りだからしたいわけじゃなくて、俺は大好きなミカエルと仕事以外でもたくさん出掛けたい」
サイモンは僕を引き寄せ、髪にキスをする。
「もう、まだ仕事中だよ」
アボットさんの視線を感じて、気まずい。
「ミカエルとデートに行きたくて一生懸命頑張って、仕事終わらせた」
デスクの上に置かれた書類の山を見ると、全て完成している。
「ここに、ご褒美くれる?」
サイモンはヒョイと僕を片手で抱き上げ、もう片方の手の人差し指で自分の唇を指差す。
「えっ?今?ここで?」
今は2人っきりじゃないのに。
ちらりとアボットさんを見ると、わざと僕たちに背を向けて知らないふりをしてくれている。
気を使わせてしまって、すみません……。
心の中でアボットさんに謝ってから、
「大人のはしないからね」
アボットさんには聞こえないように耳元で囁くと、そのままの勢いでサイモンの唇に軽いキスをした。
するとサイモンは僕の後頭部に大きな手を添えて、僕がサイモンから逃げられないようにしてから、ぬるりと舌を口内に入れてくる。
大人のキスはしないって言ったのに!
そう思ったのは一瞬で、すぐにサイモンの濃厚なキスに流されてしまう。
向きを変え、舌を吸う力を変え、舌と舌を絡み合わせる。
大人のキスだけで蕩けてしまう身体は、熱をもち楔が疼く。
「ふっ……、ぅん……」
鼻から吐息が漏れる。
アボットさんが、すぐそこにいるのに……。
頭ではそうわかっていても、腕をサイモンの首に回し歪みついてしまう。
「可愛いな……」
サイモンがそう呟いた時、僕たちに背を向けたまま、コホンッとアボットさんがわざと大きく咳払いをする。
「サイモン様。早く出発しないと、出店がみな閉まってしまいます」
サイモンがちらっと時計を見る。
「そんな時間か……」
そう言ってから、
「続きは帰ってから」
僕の耳元で囁いた。
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