26 / 82

第26話 デート ①

「今日は街に行くよ」  書斎でサイモンと執事のアボットさんと書き仕事をしている時に、サイモンが言った。 「お仕事?」 「いや、今日はデートだ」 「でぇと?」  初めて聞く言葉に、僕は首を傾げる。  サイモン曰く、今、帝都で恋人同士や夫婦、愛する人と出かける『デート』というものが流行っているそうだ。 「流行りだからしたいわけじゃなくて、俺は大好きなミカエルと仕事以外でもたくさん出掛けたい」  サイモンは僕を引き寄せ、髪にキスをする。 「もう、まだ仕事中だよ」  アボットさんの視線を感じて、気まずい。 「ミカエルとデートに行きたくて一生懸命頑張って、仕事終わらせた」  デスクの上に置かれた書類の山を見ると、全て完成している。 「ここに、ご褒美くれる?」  サイモンはヒョイと僕を片手で抱き上げ、もう片方の手の人差し指で自分の唇を指差す。 「えっ?今?ここで?」  今は2人っきりじゃないのに。  ちらりとアボットさんを見ると、わざと僕たちに背を向けて知らないふりをしてくれている。  気を使わせてしまって、すみません……。  心の中でアボットさんに謝ってから、 「大人のはしないからね」  アボットさんには聞こえないように耳元で囁くと、そのままの勢いでサイモンの唇に軽いキスをした。  するとサイモンは僕の後頭部に大きな手を添えて、僕がサイモンから逃げられないようにしてから、ぬるりと舌を口内に入れてくる。  大人のキスはしないって言ったのに!  そう思ったのは一瞬で、すぐにサイモンの濃厚なキスに流されてしまう。  向きを変え、舌を吸う力を変え、舌と舌を絡み合わせる。  大人のキスだけで蕩けてしまう身体は、熱をもち楔が疼く。 「ふっ……、ぅん……」  鼻から吐息が漏れる。  アボットさんが、すぐそこにいるのに……。  頭ではそうわかっていても、腕をサイモンの首に回し歪みついてしまう。 「可愛いな……」  サイモンがそう呟いた時、僕たちに背を向けたまま、コホンッとアボットさんがわざと大きく咳払いをする。 「サイモン様。早く出発しないと、出店がみな閉まってしまいます」  サイモンがちらっと時計を見る。 「そんな時間か……」  そう言ってから、 「続きは帰ってから」  僕の耳元で囁いた。

ともだちにシェアしよう!