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第42話 罪悪感 ④

 1週間後、ヒートはきてしまった。   妊娠はしていなかった。  望まれない妊娠をしていなかったことに安堵し、何をしても役立たずな自分が憎らしかった。  虚しく1人でヒートの期間を過ごす。  1人でヒートを収める行為は、泣きながらした。  もうこのまま行為はせずに、苦しむことを選択しようと決めたのに、手が勝手に動いてしまう。  四つん這いになり中をかき混ぜ、楔を扱く。  なんて醜悪な姿なんだろう。  この世で僕より醜悪なモノはないだろう……。  そう思うとサイモンに本当の姿を見られなくて、安堵さえした。    僕はここを出ていく。  でもカトラレル家には帰れない。  いく当てがない。  |オリバー家《ここ》には必要なものが全てあったので、お金を持っておく必要がなかった。  だから今僕が持っているお金も微々たるもの。  少しばかりの服とお金をかばんに入れて、ベッドの下に隠す。  出ていくなら夜。みんなが寝静まった時。  3日後にはヒートは治るはず。そうなったらオリバー家を出て行こう。  そんなことを考えながらヒートが終わるまでの2日間を過ごしていると、ルーカス様から緊急の手紙が届いた。  それは『今すぐサイモンと一緒に俺に会いに来い。これは命令だ』というものだった。  本当は明日の夜。ひっそりとオリバー家を出て行こうと思っていたけれど、ルーカス様の命令であれば従うしかない。  同じような内容の手紙がサイモンにも届いていたようで、すぐさまサイモンが僕の部屋の前にやって来た。 「ミカエルはもう知っているかもしれないが、俺にもルーカス様から手紙が届いた。今すぐ2人で宮廷に行かないといけない。だからどうかお願いだ。そこから出てきて欲しい……」  部屋から出てきて欲しい。  そういうサイモンの声は、悲痛な願いのような声だった。  僕は部屋のドアの前まで近づく。 「僕……、サイモンに、会わせる顔が、ない」  あれからはじめて、サイモンの問いかけに答えた。 「!」  部屋の外で、サイモンがハッと大きく息を吸い込む気配がした。 「そんな!そんなことない!そんなこと思う必要もない。お願いだミカエル。少しだけでいい。ここを開けて欲しい。少しでいいんだ、ミカエルが元気でいるかだけでも知りたいんだ。俺が悪かった。全部俺が悪かった。ミカエルすまない。この通りだ。どうかお願いだミカエル。ここを開けて欲しい……」  僕が全部悪いのに、サイモンは自分を責めている。  毎日僕に会いにきてくれて、手紙をくれて、こんな僕に『愛してるよ』と言ってくれる。  自分の事は棚に上げ、僕はあんなこのからサイモンを傷つけ続けている。  謝ろう。  膝をついて、サイモンが許してくれるまで謝ろう。  そしてどんな仕打ちも受け入れて、この人生が終わるまで謝罪をし続けよう。  僕は震える手でドアノブに手をかけ、ガチャリとドアを開けた。

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