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第51話 恐れていたこと ⑥

 ルーカス様に頼み、最後の挨拶をするために執事に連れられて、サイモンが滞在している部屋に向かう。  部屋までの廊下はとても長く、その間、僕はサイモンに対しての謝罪の言葉を考えた。  謝罪の言葉。  どんなことを言い繕っても、サイモンを騙し傷付けたことは変わりがない。  最後にきちんと『さよなら』と『今まで騙してしまって、ごめんなさい』だけは言いたい。  僕とサイモンは離縁する。  サイモンに姑息な僕と結婚してしまったという、汚点をつけさせてしまった。  僕は一体、どのぐらいサイモンに嘘をつき、どのぐらい傷付け、どのぐらい迷惑をかけただろう。  母様がおっしゃる通り、僕が出来損ないで人に迷惑ばかりかける、どうしようもない奴なんだ……。 「こちらが、サイモン様が滞在されているお部屋となっています。私は離れて待っておりますので、ゆっくりと|最後《・・》のお別れをしてください」  そう言って、執事は部屋のドアから離れた。 「……」  サイモンがいる部屋に、僕は一歩近づく。  もう一歩近づく。  あと一歩近づけば、ドアをノックできる距離になる。  心臓の音が大きくなる。  サイモンに別れの挨拶をする。  脳裏にサイモンの笑顔と共に、先ほど僕を見つめる嫌悪がみちた顔が浮かぶ。  胸が苦しい。  自分がした罪の重さで押しつぶされそうだ。  潰されてでも罪を償わないといけない。よくわかっている。  なのに涙が出てくる。  後悔と自責の涙が。  泣いても何も変わらないのに、涙が出てくる。  さようなら、あの楽しかった日々……。  ぎゅっと力を込めて拳を作り、 ーコン コン コンー  とドアをノックした。 「はい」  中から愛しい人の声がする。  ドキンと鼓動が跳ねた。 「サイモン、僕だよ。|レオナルド《・・・・・》  ミカが死んでしまってから初めて、僕はサイモンに自分はレオナルドだと言った。 「……」  でも本当の名前を告げても、サイモンから返事は返ってこない。  そうだよね。僕の声なんて聞きたくないよね……。  でも……。 「あのねサイモン。今までずっとサイモンに嘘をついて騙して、ごめんなさい。今更何を言ってもダメだと思う。でも僕はずっとサイモンのことを想っていたし、愛していたんだ」 「……」 「番にも……なりたかった……」 「……」  サイモンからは何も返事がない。  そりゃそうだよね。僕は何て未練たらしいことを言っているんだろう。  そう思っても言ってしまう。  この後に及んで、サイモンに誤解されたままは嫌だった。

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