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第50話 恐れていたこと ⑤
「お前が身分を偽っているのを、今知っているのは俺とサイモンだけだ。レオナルド、これからのお前の身の振り方は、お前自身に任せる。その答えによっては、このことを陛下にお伝えするか、しないかを決めさせてもらう」
何てことなんだ……。
僕の答え次第で、これからのサイモンやオリバー家の処罰が変わる。
考えないと、考えないと、考えないと……。
ルーカス様の望まれている答えは、なに?
ルーカス様の目を見ながら考えたが、何も思い浮かばない。
「答えは出たか?」
そう問われ、僕は首を横に振る。
「では、そもそもの嘘を作り出したカトラレル家と、真実を知っておきながら黙っていたサイモン。そしてオリバー家のことは陛下に報告を……」
そんな!
僕のせいで!
「僕はなんと答えれば……、なんと答えればカトラレル家やサイモン、オリバー家は処罰を受けずに済むのですか?」
その答えは教えてもらえないと思う。
でも藁でもすがる思いで聞いてみた。
「サイモンと離縁し、俺の妃になれ」
「……え……?」
思いもよらない答えに思考が止まる。
「どうして……、それは、どういう、意味で、しょうか……?」
思うより先に言葉が出ていた。
「俺が何をどうしようが、お前には関係ない」
ピシャリと言われてしまう。
「ですが……」
そこまで言った時、ルーカス様にギロリと睨まれる。
冷静になって考えてみた。
僕はまだ今の段階ではサイモンの妻。
それにルーカス様は第二王子という高貴な方。
そのルーカス様が一度結婚したことのある人を、しかも僕みたいな人間を妃に……?
「お前が俺の妃になるのならば、カトラレル家よサイモンもオリバー家も不問とする。だが妃にならないのであれば……わかるな?」
最後まで言われなくてもわかる。
妃にならなければ、カトラレル家もサイモンもオリバー家も処罰される。
カトラレル家には父様と母様、そして僕の妹か弟が母様のお腹にいる。
僕のことを一人の人間として接してくれた、大好きなオリバー家の人たち。
僕のことを『ミカエル様』と親しくしてくれた、街の人達。
僕が嘘をついていても、知らないふりをして僕をそばに置いてくれた、僕の愛する人。サイモン……。
僕の大切な人達の笑顔が浮かんでは、消えていく。
僕のせいでなんの罪も犯していない人達が、処罰を受けるなんておかしい。
路頭に迷うのはおかしい。
今まで通り、幸せで穏やかに過ごしてほしい……。
「どうだ?答えは決まったか?」
さらに僕の顎をグイッとルーカス様があげる。
「はい。決まりました」
「ほう、それで?」
僕の答えは決まっている。
大きく息を吸い込み、ふぅ~と小さく息をはく。
「僕はルーカス様の妃になります」
ルーカス様の目をしっかりと見て、答えた。
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