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第53話 宮殿での生活
翌朝、サイモンの様子を聞くと、サイモンは昨晩のうちに宮殿を出て、オリバー家の領地に帰ったそうだ。
もう二度と会えなくなるサイモンの後姿さえ、見送ることはできなかった。
窓から見える園庭は、どこも手入れがされていて、美しい草花が咲いている|だろう《・・・》。
でも僕にはわからない。
見えるもの全てに色がなくなり、白と黒の世界になってしまったから。
ートン トン トンー
部屋のドアがノックされ、
「レオナルド ルーカス様が書斎でお待ちです」
侍女が二人入って来て、僕は準備をする。
ルーカス様とは、あの話以降会っていない。
昨日、僕のしてしまったことに物凄く怒ってらして、もう僕と会うのは嫌だと思っていたのに、どうして?
準備が終わり書斎に通されと、ルーカス様はドアに背を向け、園庭を見ている。
「お呼びでしょうか?」
ルーカス様は書斎内にいる執事や侍女を、視線だけで退室させた。
「サイモンと別れはできたか?」
まだルーカス様は僕に背を向けたままだ。
「はい。離縁の手続きもサイモンがして、書類は早馬で届けてくれるそうです」
「そうか……」
まだ僕に背を向けているので表情はわからないけれど、とてもルーカス様の哀しげな声がした。
ルーカス様が処罰を見逃すために、サイモンと離縁して妃になれとおっしゃったのに、どうしてそんな哀しそうなんですか?
聞きたかったけれど、聞いてどうなると思いやめた。
「お前は今まで『ミカエル』と名乗っていたが、今日からお前は『レオナルド』に戻る。その理由は『流行病の高熱から目覚めた時、自分がミカエルだと勘違いしていたが、最近記憶が戻った』と言うことにしてある。このことをきちんと理解しておくように」
ルーカス様はまだ窓の外の景色を眺められている。
今までルーカス様は手紙で僕のことを『レオナルド』と書いてくださっていたのに、昨日から僕のことを『お前』としか呼んでくださらない。
僕はお前と呼ばれて仕方の無いことをしてしまった。
でもお前と呼ばれるたびに、胸がズキンと痛む。
あんなにお優しかったルーカス様を変えてしまったのは、僕だ。
「あと、お前は今日から俺の隣りの部屋に移るよう、手配してある。欲しいものがあれば、侍女か俺の執事に言うがいい。だが、俺がいいというまで部屋から出ることは許さない」
欲しいものは与える。
でも勝手な行動は許さない。
いわゆる監禁状態だ。
それがルーカス様の命令ならばしたがうしかない。
「はい。わかりました」
そう答えると、
「では、もう下がれ」
ルーカス様は一度も僕の方を見ることなく、僕を書斎から追い出した。
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