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第54話 瑠璃色の部屋 ①

 侍女にルーカス様の寝室の隣りにある僕専用の部屋に、連れて行かれた。  淡いクリーム色と宝石のラピスラズリ色である瑠璃色(るりいろ)基調としていて、部屋はとても綺麗で調度品も煌びやか。  大きな窓からからは園庭が見える。  天蓋付きのベッドは人が3人ゆったり寝られそうなほど広く、枕カバーには青い花が刺繍されていた。  青はミカが大好きな色で、イメージカラー。  きっとここはミカのためにルーカス様が用意していた、部屋じゃないだろうか? 「御用があれば、そのベルを鳴らしてください」  そう言って侍女は出て行ったが、ここは宮殿。  廊下にずっと待機していない限り、手持ちのベルを鳴らしたぐらいでは誰にも聞こえないし、気づかれない。  試しにリンリンとベルを鳴らしてみたが、誰も来ない。  やっぱり……。  侍女が言いたかったのは「用事があっても、ベルで呼ぶな」と言うことだろう。  部屋に飾られていた青い花は、水が変えられていないのか萎れている。  ある時を境に、この部屋の手入れを誰もしていない証拠。  無言のままベッドに横になると、我慢していた涙が溢れた。 「うっ、うっ……っう……」  この涙は何の涙だろう?  ルーカス様に邪険にされた涙?  サイモンにさよならを言った涙?  薬を盛ってまでサイモンと行為をしたのに、妊娠しなかったことの涙?  自分はミカのフリをして、サイモンと結婚したこと?  父様と母様に死んだのは僕と言うことにしなさいと言われたこと?  サイモンにずっと嘘をついていたこと?  ミカとお別れがきちんとできなかったこと?  それともサイモンとの楽しかった日々を思い出してのこと?  どの涙かわからない。  ただ言えるのは、みんなに嘘をついて、騙して、傷つけたことへの後悔と、懺悔の気持ち。  ミカが死んでしまってから、僕はきちんと泣けてなかった。  その涙を出し切るように泣いた。  僕の世界は今日、この瞬間からこの部屋の中だけになる。死ぬまでずっと。  そのことを悲しいとは思わない。  それより僕にきちんと罰をあたえてくださったルーカス様に感謝した。

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