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第1話 見つけた
ついに見つけたんだ。妄想の恋人。実在するならこんな人がいい、と想像していた。
俺はスーパーマーケットで働いている。バイト。朝から品出しをしていた。商品を補充する仕事。この界隈でも安くて評判の店だ。
近くに大学がある。俺はそこの学生だ。
今日は金曜日。仲間たちが集まって、誰かの部屋で飲み会をやるための買い出しだろう。数人の学生風のグループが来た。
「あいつの部屋には、油と塩コショウしかないってよ。」
「何買う?やっぱ焼き肉?あとタレも。」
「ビール買おう。それとワインも。」
「私ってビール飲めない人なの。
甘いカクテルがいいな。」
彼女なのか、腕にぶら下がるようにして、甘えた声を出している。こう言う女に憎悪を覚える。
俺はミソジニーか。
みんなが食べ物を夢中で探している。他にも女子が数人混じっているが、彼女が彼を独占している。
彼と目が合った。品出ししながら、邪魔にならないようにせっせと商品を並べていた俺を、その人はまっすぐ見つめてくる。
世界でその人だけが、俺には見えていた。
背が高くて長そうな髪を引っ詰めてまとめている。端正な顔が小さい。
まるで自分のもののように腕を組んでこちらを睨みつける彼女。
なんてウザい女だ。俺とその彼の間に割り込んでくる。わざと品出し中の商品を手に取り、また、投げ返してくる。
棚に並べたばかりの商品を、関係ない所に放る。
「ねえ、サラダが食べたい。私、野菜がないとダメな人なの。」
舌っ足らずな喋り方がイラっとさせる。
彼は困った顔をして彼女に引っ張られて行った。
(なんて綺麗な彼。女なんか霞んでしまう。)
しばらく見惚れてしまった。割と広いスーパーの中を彼らはグルグル回っている。買い物に慣れていないのか、必要な物が探せないらしい。
その都度、彼は彼女に仕切られて後をついていく。牛肉を手に取った。その手に見惚れる。骨ばって長い指。
しきりに牛肉を見ている。常陸牛の特上。焼肉用の霜降り。柔らかくて焼いたらあっという間に舌の上で溶ける。当店のおすすめ品だ。
手を離した。丁寧に元あった場所に返した。
その長い指を見る。大きくて逞しい。
俺のばあちゃんが言ってた。
「指のきれいな男はダメだよ。
働かない、頼りにならない。気を付けろ。」
この人は違うよ、ばあちゃん。俺を騙しに来たわけじゃない。ほら、女の子にくっつかれて少し困ってる。
綺麗な手の人は、帰ってしまった。どこか俺の知らない所に。
もう二度と会う事はない。いつも一瞬の出会いを元にして夢をみる。俺の悪い癖。
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