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第3話-2 「抜いてみたら?」

映画が始まる。 始まってすぐ、スクリーンに大きく春の横顔が映し出された。 改めて秋は、春のその顔の造形に圧倒される。 本当に綺麗な人だ、と秋は改めてその姿に見惚れた。 春は普段の穏やかで物静かな印象とはまるで違い、作品の中ではとても明るくおしゃべりな役を演じていて、快活に話す春の姿に、秋は呆気に取られてしまった。 そして続けて松山が登場。 松山は普段、物怖じせすズバズバと物事を言うタイプで、五人でいる時も比較的よく喋る方だ。 しかし映画の中では無口であまり話さず、繊細な目線使いで芝居を進めていた。 
 映画のスクリーンに映る二人は、普段の二人とはまるで違った。 

完全に二人が役として存在していて、秋は次第にその映画の世界観に没入し、釘付けになっていった。 映画中盤、二人きりでのシーン。 
松山の演じる高校生に、春が演じる高校生が静かに迫り、二人はキスをした。 その瞬間、どきりと秋の胸が高鳴った。 すでにこの時には作品に没頭し、すっかり役として二人を見ていたはずで、そしてそれは幸せなシーンのはずだったのに、秋の胸はズキリと痛むようだった。 物語が進み、再びキスシーンがやってきた。 
しかしなぜか秋は目を逸らしてしまい、スクリーンを見ることができなかった。 嫌だ、と思った。 秋はなぜ自分がそんなふうに思ってしまうのか、理解できなかった。

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