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第4話-2 「好きな人いるの?」
「最近…気になる人が出来て、そ、その人に向けて書いた曲を、新曲を歌います」
観客は"新曲"と言うワードに沸き、小さく歓声を上げた。
秋はパッと春に視線を向ける。
春はじっと、こちらを見ていた。
秋はその春の視線に舞い上がりつつも、春への片想いのような恋心を乗せた楽曲を披露する。
少し声が震えた。
ダメ、と秋は歌いながらふっと目を閉じる。
ちゃんと伝えなきゃ、伝わるように――。
――
歌い終わった後、観客が拍手で秋を讃える。
それにふっと安堵の様な微笑みを浮かべる秋。
ふと春を見る。
すると、春は周りの観客と同じように、ゆっくりと拍手してくれていた。
ちゃんと聴いてくれていた。
秋は嬉しくて、胸がいっぱいになった。
そして無事にアンコールを終え、ライブは終了。
急いでフロアに出るも、すでに春の姿はない。
思わずフロアの外へ向かおうとするも、ファンたちが声をかけてくる。
それを蔑ろにする事は出来ず、秋は素直にファンに対応する。
口々にライブの感想を話してくれるファンたち。
すると関西時代からの長いファンが、いつもの砕けた様子でニヤリとして、秋に尋ねる。
「好きな子、呼んでたでしょう?」
秋はその言葉にえっ、と大きな声をあげる。
な、なんでですか?と尋ねると、いや分かったよねぇ、とそのファンは他のファンにそう目配せした。
すると周りのファンたちも「秋くんわかりやすいから」と笑う。
「実るといいね」とファンは温かくそう言ってくれた。
そうして想いを言葉にしてみて、秋は実感した。
きっと、俺は。
――春が好きだ。
思わず顔が赤くなるのが自分でも分かった。
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