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第10話-3 行きたかったな

時刻は23時。 こんな時間に誰・・・?と恐る恐るドアスコープを除くと、そこには春がいた。 え!?!?!?と大きな声をあげ、秋は咄嗟にドアを開ける。
 突然激しく開いたドアに春は一瞬のけぞる。 「わ、ご、ごめん!」
 「あ、いや。こっちこそ急にごめんね」 秋は自室にいて気づいていなかったが、外は大雨だったらしい。
 春は髪も服も濡れていて、手元には傘がなく、
ただ携帯だけを握りしめていた。 上がって上がって、と春を部屋にいれる。 洗面所からタオルを何枚も持ってきて、春に手渡す。 春は”いつもの”ようにふわりと笑い、一枚で大丈夫、ありがとう、と言い、
秋からタオルを受け取って髪を拭いた。 春は玄関から先に来ようとはしない。 
秋はそんな春を一度は呼ぶこむが、ここで大丈夫、と春は断る。 断られたことで、秋はまた不安がよぎる。 
やっぱりこの間、泊まるように誘ったのを、
春はよく思っていないんじゃないか。 秋は思わず俯いた。

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