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第10話-4 行きたかったな

すると春は改めて、
「昼間、ごめんね」と言った。 「あ、ううん、本当に気にしてないから、大丈夫だから」 そう言った秋をじっと春は見つめ、
そしてうん、と言い、ありがとう、とタオルを秋に手渡した。 「わざわざそれ言いにきてくれたの?」と秋は小さく尋ねる。 すると、春は少し黙って何度か瞬きをした後、
「携帯」と一言つぶやいた。 「携帯?」 「秋から電話がきたときに落としちゃって、電源、つかなくなって」 「うん」 「・・・だから、しばらく連絡返せないから、秋が・・・」 「・・?」 春はふっと目線を下に落として、
足元を見ながら小さな声で言った。 「秋が何て連絡くれたのか、気になって」 
「・・急に来て、ごめん」 秋はその春の言葉に拍子抜けしたような表情で、
「あ、あ・・」とつぶやいたあと、
「いや、春が・・すごいなんか・・あの、気にしてるのかなって思って、その・・わざわざ連絡くれたくらいだったから、あの、大丈夫だからって言いたかっただけ、なんだけど」と言った。 すると春は「そっか」と言った。 秋は恐る恐る尋ねた。
 「俺がなんて言うかが気になっただけで、わざわざ来た・・の?」 「・・うん、ごめんね」 「あ、いや!その、謝って欲しいとか全く思ってなくて、その・・いや、俺は・・」

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