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第24話-5 卒業式の日
秋が松山に春の話をしなくなった頃から、春と秋は学校で会っても二人で会話をしなくなった。
二人の間に、何があったのか___。
――
「壱川さん、松山さん、お願いしますー!」
そのスタッフの呼びかけに、考え込んでいた松山はハッとする。
二人は自宅を模した撮影セットに入る。
スタッフの指示通りに、二人はソファに座った。
そして簡単に流れを確認する。
二人がそっとお互いの頬に触れ、見つめ合う、といったシーン。
カットがかかり、春はそっと松山の頬に触れた。
そして、松山も春の頬に手をやる。
その時、松山は思わず目を見開いた。
春の頬が、異様に熱を帯びていたからだ。
カットがかかり、すぐさま春に尋ねる。
「大丈夫?すごい熱いけど」
そう言って春のおでこに触れる。
やはり凄い熱。かなりの高熱だ。
すると春はいつものように微笑み、
「大丈夫、ごめんね」
と言った。
スタッフ陣はそれを俳優陣の何気ない触れ合いだと、何も気づいてはいない。
「でも…ライブって…これで出るの?無理じゃない?」
しかし春は笑って言った。
「大丈夫」
大丈夫、と言った通り、その後の撮影で春は一つのミスもせず、やり切った。
そしてあっという間に春はデビュー公演の会場に向かい、去って行ってしまった。
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